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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 ナミル山の入り口には兵士が駐屯していた。 木の影に隠れて、エドアルドはその様子を窺った。 話に聞いているより兵士の数が多いようだ。オリシスたちの事があったからだろうか。 そうなるとますますオリシス達の安否が心配だ。
 エドアルドは馬に戻り、街道を引き返した。 途中、騎士の一団とすれ違った。 思わず顔を下げて通り過ぎようとする。 髪はまた黒く染め直したが顔を知られていないとは限らない。 タニアでの一件もある。
「おい」
 呼び止められて、エドアルドは馬を止めた。
「どこの者だ」
「私は、どこにも仕えておりません」
「では、馬を下りて道をあけるのが礼儀だろう。 こちらはな」
 そういう若い騎士を主人らしき者が制した。
「失礼した。 どちらから参られた」
 身分の高そうな相手をちらりと見て、エドアルドは狼狽した。 バルツァ家のサリエルだ。 父カルマールとは旧知の仲であった男。 格はバルツァ家の方が数段由緒があるが、エルネスト・カルマールとは共に幾度も戦いをくぐり抜けた戦友。 エドアルドも何度か会った事がある。
「コーツウェルから」
 帽子を目深に直してエドアルドが短く答えた。
「あちらはどんな様子かな。 お若いの」
 なんと答えて良いものか迷ったが。
「短い滞在でしたが、その間に事件がありました。 北の宮に賊が入ったとか」
「なぬ?」
 騎士達はお互いに顔を見合わせた。
「それで、陛下は」
「そこまでは存じません」
 汗が滴り落ちる。
「引き留めて悪かった」
 通り過ぎていく一団を背中で見送りながら、ほっとエドアルドは吐息を漏らした。 ナミルの警護にあたっている兵士達はサリエルの部下達だったのか。 オレアルはどうしたのだろう。 ラースローは。成功したのなら、あそこまで物々しい警護が必要だろうか。 サリエルまでが出てきたとは。

「あの者、怪しいですな、サリエル様」
「ほおっておけ」
「しかし、腰につけた剣は騎士階級が持つものと見受けました」
 サリエルはエドアルドを覚えていた。8年前の事件からすっかりカルマール家とは縁遠くなっていたが、エドアルドが自分を覚えていないはずはない。 オリシスと共に行動していたなら自分やカルロス・モドリッチのことも知っているはずだ。 なのに身分を明かさなかった。 サリエルは北宮の事件とエドアルドをつなげた。 エドアルドはナミル襲撃に加わってはいないのだろう。 サリエルは自分より先にエドアルドがオリシスを見つけることを、望んだ。

エドアルドはオリシスの取ったであろう行動を考えた。
 オリシスとシモーナ。 たった二人だけでナミルの警護を突破し、呪詛の行われる場所まで進むだろうか。 いや、だれか他に正面ではないルートを知っている者がいるはずだ。 オリシスはきっとその者を使って山腹まで進んだにちがいない。 しかし二人では余計な体力を使う余裕はない。
 ふとナミルの東にある小さな集落を思いだした。 彼らは農耕地を持たない狩猟民族だ。 狩をして皮を売り、木を切って炭に加工してそれで糧を得ている集落。 もちろんそれは聖域ナミル内での禁猟だ。 それ故人を寄せ付けない集落でもあるが、オリシスなら彼らを難なく使える術を知っているだろう。
 エドアルドは馬を走らせてその集落に急いだ。
「またですか?」
集落は街道から山へ分け行ったところにあった。いちばん近い小屋でエドアルドはある男を探していると聞いたのだ。用心深そうな中年の猟師が、面倒くさそうに答えた。
「またとは」
「さっきも来たんでさ。お偉い役人のような人たちがね」
 サリエル達だ。彼もオリシスを探しているのか。いや追っているのかも知れない。何度も人探しにくることを、この村ではもう怪しんでいる。
『だが、まてよ』 
二番手に来た事を利用できるかも知れない。
「それで、なんと答えた」
「そんなやつは知りやせんってね」
そっぽを向く猟師の男。
「それは残念だな。他をあたるか。 惜しい事をしたな、もし知っていれば…」
思わせぶりな言葉尻に男がこちらを向いた。
「何だ。何かあるんすかい」
内心ニヤリと笑いながらもエドアルドは馬に跨る。
「いや、いい。邪魔したな」
自分達がかくまっている男が値打ちのある人物だと思わせるのに、充分すぎる効果があったようだ。猟師は立ち上がってエドアルドを引き留めた。
「あんたの探しているのは男だけですかい?」
その言葉でオリシスを知っている事は間違いがなさそうだ。シモーナは…、シモーナもここに来ているはず。もしオリシスが足止めを食うような怪我をしているのだとすれば、シモーナは助けを呼びに行くだろう。一か八か。
「一緒にいた女がおれの所に助けを請いに来た。探しているのはひとりだけだ」
 男はしばらく考え込んでいたが、もうひとつエドアルドに聞いた。
「もしだよ、もしそいつを知っていると言ったら、あんた、なにくれるつもりで」
「一生遊んで暮らせるだけの金をやる」
貧しい者を買収する時の常套文句だった。男は歩きだした。
「こちらでさ。案内しますって」
山腹まで息が切れるくらいの山道を昇った。二、三時間も昇っているだろうか。馬は集落に置いてきたが。
 小さい炭小屋が見えてきた。猟師は戸を二回、三回と叩く。しばらくして中からまた別の中年の男が出てきた。
「さ、」
エドアルドは促されるままに小屋に入った。手は腰に、剣をいつでも抜き出せる体勢をとる。
みすぼらしいベットには、上半身裸でうつ伏せになっている男の背があった。肩からわき腹にかけて何か白っぽい泥のようなものが塗られており、右肩には薬草が巻かれていた。
「オリシス」
呼びかけても返事はない。
「死んでいるんではないだろうな」
「い、生きてますさ。まだはっきりしないだけで。生かしておいたら金をくれるって約束ですぜ」男を無視してエドアルドはベットに歩み寄った。微かだが、息をしている。
「金は今は持っていない。無事に山を下りられたら渡してやる。動けるまでおれもここに世話になるぞ」
「そんな。もうここも危ないんですぜ。ここの警備が増えて。見つかるのも時間の問題だ」
「だが動かせる状態じゃないだろう」
しかし猟師達の言うとおり、ここに居るのも危険だ。どうしたものかエドアルドは迷った。それにしてもシモーナはどうしたのだろう。
 オリシスが小さくうめき声を上げ、細目をあけた。
「オリシス、聞こえるか。おれだ」
「エ…」
エドアルドは胸をなで下ろした。意識はある。ならば助かる見込みはある。
「しばらくだ。もうしばらくここに居させてくれ。薬草をもっと頼む」
 そしてエドアルドは猟師の持っているこの数日間の情報を求めた。
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いくつかの場面に分かれていた物語が集中していく様子がいいですね!興奮です!
しかしまだまだ終わりそうにありませんね。結局謎も残っていますし。
クライマックス、楽しみにしています!

2006.12.25 17:55 URL | 一九 #- [ 編集 ]

年の瀬ですねー。
久しぶりにパソの前に座ることが出来ました。

いつもありがとうございます。
自分の方が、こんな調子なのでなかなか一九さんのところにもいけませんが、正月はのんびりできそうですのでゆっくり巡らせていただきます。
来年もどうぞよろしくお願いします!

2006.12.30 21:43 URL | 武久縞 #- [ 編集 ]













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