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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 
 ラティアは宮の異変に感づいていた。 宮の警備はあれからひどく物々しくなったし、侍女達の緊張も伝わってくる。 だがそれだけではない。 疲れで休んでいるという国王の部屋に閉じ込もってるティスナだ。 誰も部屋には入れず、ティスナも姿を現さない。 そうなるとラティアの仕事は無いにも等しかった。
 ラティアは息詰まる侍女部屋から抜け出し、ふらりと中庭に出た。 エドアルドの事が頭から離れない。 無事だろうか。 逃げ切れただろうか。 宮の様子ではまだ賊は捕らえていないようだった。
「ラティア」
 呼ばれてラティアは振り返った。 キアヌだった。 またひとりでいる、とラティアは思った。
「どうなさいました?」
 キアヌの暗い表情。 あのショックから立ち直れないのも無理はない。
「どうしたらいいのかわからないんだ」
 キアヌがか細い声で呟いた。
「ぼく…」
「心配する事はありません。 陛下もじきによくなります」
 うつ向いたキアヌは首を振った。
「キアヌ様?」
「みんなあの夜の賊を探している。 お父さまは病んで伏せっている。ぼくはあの時の…」
 キアヌの言わんとしている事がわかった。
「王子は見たままのことを言えばいいのです」
 キアヌが顔を上げた。 泣き出しそうな表情。
「でも、言ったらラティアは」
 賊はラティアの名を呼んだ。 知り合いだった。 それを言えばラティアは…。
「王子が困る事はないの。 王子がそうしても、あたしは王子の事を恨まない。 キアヌ様。 するべき事をするのが王子の役目です」
「友達を裏切っても?」
「裏切りではないわ。 王子が正しいと思ったなら」
「どれが正しいかわからない。 ぼくはラティアが好きだし、責められるとわかってて言うことは出来ない」
 ラティアは笑った。 王子は自分を友達だと言ってくれる。
「大丈夫。 あたしはあたしなりのやり方で自分を貫くわ。 でもそれはきっと王子に対する裏切りになるわね」
 キアヌは涙を溜めて唇を噛みしめた。
「ちがう。ちがう…」
 大粒の涙がキアヌの足元を濡らした。
「ぼくがラティアのことを言っても、ラティアは答える気はないんだね」
「そうよ」
「お父さまは、賊を捕らえたらただじゃ済まさないって言っていた。 ラティア、殺されるよ」
「自分を貫けられたらそれで満足よ。 あたし、その人に命を助けられたことがあるの。 今度はあたしが助ける番。 人生おあいこになるようになってるのよ」
 ラティアが目線をキアヌにあわせ、やさしく微笑んでいる時、背後の回廊を数人の騎士があわただしく通り抜けていた。

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