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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 猟師の待つ山腹までどうたどり着いたのか、シモーナにも覚えてはいなかった。 意識が無くなりかけているオリシスはそのまま倒れ込んだ。
「安全な場所まで運んで」
 肩で息を切らしながら、シモーナも目眩を覚えた。 いや、今ここで倒れるわけにはいかない。 猟師は炭小屋に使っているという、山中の小さな小屋にオリシスを運んだ。
「水と薬草、それから布がいるわ。集めて」
 二人の姿に先ほどから一言も声を発せず、猟師は黙って小屋から出て行った。
 シモーナは震える手でオリシスのシャツを切り裂いた。 背中の傷は出血の割には大した事がない。 問題は肩だ。 だいぶ化膿している。 背中の出血が体力を弱めている。 剣先を炎であぶり、傷を開いて膿を出す。 意識を無くしている分幸いだ。 もう一度剣先を焼いてから、今度は傷口にあてる。 これで熱が治まれば、なんとかなるかもしれない。 しかしもはや手遅れかもしれないのだ。 祈る気持ちでシモーナはオリシスの汗を拭いた。
「ア……。ア…」
 うわごとのようにオリシスが呟いた。 最初は聞き取れなかったが、繰り返したときシモーナはそれが誰の名であるか解った。 オリシスの正体がオレアルに知られた。 ということはアリアの事も知れたということだ。 そのラースローとオレアルは早馬でナミルを出た。 おそらくコーツウェルの北宮に向かったのだろう。 オリシスはアリアの名を、アリアの無事をうわごとで言っているのだ。 おれは死なぬとオリシスは言った。 それは自分にではなく、アリアに対しての言葉だったのだ。
 シモーナは立ち上がった。 猟師が布と薬草を持って戻ってきた。
「傷の手当はできる?」
「あ、ああ。 そりゃもう」
「ではこの方を死なせないで。 一生遊んで暮らせるだけのお金をあげるわ」
 小屋を出ていく背中に猟師は声を掛けた。
「あんたも怪我をしているじゃねーか。 どこに行く」
「助けを呼んでくるわ」
「その傷じゃあ…、あんたも手当をしたほうが」
「そんな時間はないの」
 猟師の声を振り切って、シモーナは闇の中へ姿を消した。
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