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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 騎士階級らしい貴族とその兵士達が敷地内に入ってきた。 アリアは急いで屋敷の外へ出た。
「怪しい者を見かけなかったか」
 騎士が馬上から問いかける。
「いいえ、ここへは誰も。 なにかあったのですか」
「主人はどうした」
「一週間ほど前から出かけています」
「他には誰かいないのか」
 自分の他にはここにはいないとアリアが告げると、馬上の騎士は背後の者と何かを話していた。
「ここはこのとおり見晴らしのいい土地です。 誰か来ればすぐにわかります。ああ、私よりも土地の人間の方がよそ者には敏感ですよ」
「念のため、屋敷内をあらためる」
 兵士達が屋敷の部屋という部屋を捜索しているあいだ、アリアは騎士達に居間で茶を煎れた。
「あの、何があったのでしょうか」
アリアはもう一度聞いた。
「北宮に賊があったのだ。 おまえひとりなら、ここも用心した方がいい」
「野盗ですか? どこに、被害は? 我が主人は大丈夫でしょうか」
「ラースローか」
「しばらく姿は見ぬな」
「おおかたまたどこかの貴夫人のところで楽しんでいるのさ」
「いや、貴夫人に限らないぞ」
 騎士達の下卑た笑いがアリアの耳には不快だった。
 公爵アルマーシ家の跡継ぎと申請はしているものの、ラースローはまだ貴族ではない。 それなのにコーツウェルで大貴族並みに屋敷を陛下から賜ったことに対するやっかみが多いとオリシスから聞いてはいた。が、あからさまにこういう面当てをされると、自分が言われているようで、アリアは気分が悪くなるのを感じた。 ラースローだったらあの美しい冷淡な顔で受け流すのだろうが、今なら分かる。 冷淡な表情であればあるほどその仮面の下で激しい怒りを燃やしていたことを。
「この屋敷に使用人ひとりとは、意外に質素な暮らしをしているんだな」
 騎士達がアリアの心配をよそに屋敷の中を見ている。
「あの奥の部屋はなんだ」
 ひとりが書斎の奥の扉を指して言った。
「ラースロー様の執務室です」
「見せて貰おう」
「あ、でも」
「なにか不都合でもあるのか」
「主人に叱られます。 私も許しがなければ入れません」
「ならばますます見ない訳にはいかないな」
 扉を開けた騎士達は、その部屋の内部に呆然とした。
「なんだ、これは」
 棚に並べられた得体の知れない瓶詰めや部屋にこもる臭気に、騎士達は吐き気を催し、数秒で部屋を閉めていた。
「ラースローはあの部屋でいつも何をしている」
「はあ、薬の調合とか、してるみたいです」
「ろくに出仕もしないで、変人のようだと思っていたが、本当に変人だったんだな」
 笑い声がおこった。アリアはむっとした。
「屋敷には特に異常ありません」
 報告しに来た兵士を合図に、騎士達は引き上げていった。
 アリアはそれを見届けてから書斎の奥の、先ほど騎士達が二の足を踏んだ部屋に向かった。
「兄上」
「行ったか」
 観音開きの戸棚の下段から、エドアルドが這いだし、膝の埃を払って立ち上がった。

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