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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 オリシスはその反応を見てか、それとも全く知らないでか一拍おいて
「という噂だ」
とつけ加えた。
 エドアルドは眉をしかめたまま吐息を漏らし、アリアはまだ肩をこわばらせたままオリシスを見ていた。
「王宮では禁句になってはいるが、エルネスト・カルマール氏の事件は噂の的だ。 誰彼となく顔を突き合わせてはその話で持ちきりときている。 あのまじめだけが取り柄のエルネスト氏が宮廷を去って何年になる? それがいきなり謀反だ。 裏に何かあると思う方が普通だろうが」
オリシスは宮廷に出入りしている。 その辺の情報は確かにエドアルドよりも多いだろう。
「お前はここんところの王宮の情勢を把握しているか?」
オリシスに問われて、エドアルドは答える事が出来なかった。 父の仇を討つ。 裏向きの使命はあるものの、実際の状況は具体的にはわかっていない。 そもそも父がなぜあんな事をしでかしたのかさえまだ理解できてはいないのだ。 だがオリシスがわかっているとも思えない。
「宮廷は今、国王派と王太子派に二分されている。 国王陛下とメルキオ殿下の不仲が原因だ。 お前も知っているだろう? 国王の側妃ティスナ。 あれが王子を生んだのが事の起こりだ。 王妃様が亡くなられてからティスナは陛下の寵愛を一身に受けている。 しかも王妃と異なりかなり機転が利くところが気に入られている。 陛下は高齢。 王子は幼い。 これだけの要因がそろって、次に来るのは?」
オリシスが促す答は軽々しく口に出来るものではない。 だがもし本当にそうなら、父の仇は…。
「…メルキオ殿下の排嫡」
エドアルドは答えた。 もしこれが本当だとしたら、父の仇の行き着く先はティスナ妃、いや、国王ということになる。
 アリアは一言も発しなかったが、事の重大さはよくわかっていた。 青ざめたエドアルドの顔。 兄に課せられた重荷を少しでも肩代わりしてやりたかった。 だが、自分の存在がかえってエドアルドをそこまで思い詰めさせているのだ。 もし自分がいなければ、守るべき相手がいなければエドアルドももっと自由に自分の行く道を選択出来たはずだ。 爵位は8年前に捨てた。 エドアルド自身に爵位に未練があるとは思えない。  あるのは父を失った後の責任感であり、アリアの今後の生きていく上での保証の確保だ。 被保護者の甘えだけでなく、アリアはそう思っていた。
 オリシスは続ける。
「しかしいくら国王と言えど、人望厚いメルキオ殿下を意味もなく排嫡出来る訳がない。 そこでまず殿下のお子達を狙った」
「まさか!」
「ご自身の孫だぞ。 カミーラ様やユーシス様の死因は流行病だと聞いている」
「流行病はもっと田舎で起こっている。 王宮から滅多に外に出ない子供が流行病に倒れて、他の者が何ともないのはどういうことだ? タニアでの死者は10人にも満たないぞ」
「じゃあ、本当の死因は何だったのだ」
アリアの問に、オリシスは首を振った。
「おれの言っていることは、あくまでも噂だ」
「ではお主の意見は…? お主はどう思っているんだ」
オリシスはうつむき加減に二人を見上げた。 目が鋭く光っている。 本当に聞いてしまっていいものかアリアとエドアルドが戸惑うほどだった。 オリシスは言った。
「噂は十中八九当たっていると思う。 暗殺…それも直に手を下さずに死なせる方法、呪詛だ」
 一瞬二人は息を呑んだ。
「…出来るのか、そんな事本当に。 …邪教だろう?」
アリアが言った。
「何でもありだよ、この国は。 おれの名前だって異教の神だぜ。何考えてんだかあの親父は」
オリシスが混ぜ返すのを、エドアルドが話を戻させた。
「話には聞いた事あるが、そうだとしたら」
オリシスも真剣な表情に戻る。
「さらに次のマテオ様が狙われる」
 オリシスの言葉は不気味なほど的を得ているように思われた。
「それなら先にメルキオ殿下を狙えばそれで済む話ではないか。 なにも幼い王子達を」
アリアが声を強くした。 
「先にメルキオ殿下が亡くなれば、二人の王子達を擁立する派と国王の末子キアヌ様を擁立する派、三派に分かれ、事態はもっと泥沼化する。 ここは世継ぎを亡くした殿下の失策を誘うのが最も有効な手だてだと考えられる。 そういうことか? オリシス」
エドアルドはオリシスを見て言った。
 父は布石にされたのだろうか。 誰の? どちらの? 国王が殿下を陥れるためか、殿下が本気で国王に立ち向かったがためにか。  
『だが…』
とエドアルドは首を振る。
『どちらでもいい、今は』
 父の仇は討たねばならぬ。しかし、アリアのためにも、そして自分の為にもこれからの事をも考えなければ、そして最も有利と思える行動をとらなければここで生き抜く事は出来ない。
 オリシスの言う事を信じていないわけではない。むしろ一番真実に近いとは思う。しかしそれに片寄っては判断が鈍ることも有り得るのだ。
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