夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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 アリアとラースローが一緒に食事をする日が何日か続いた。 食事中特段会話がはずむでもなく、楽しい時間というわけではなかったが、ラースローは落ちついていた。 アリアはそんなラースローに安心とも不安ともつかないものを感じていた。 何も言わないが、確実にその日は近づいているのだ。 杞憂であってもほしいし早く片がついて欲しいとも思う。
 あの肖像画は、ラースローが書斎の奥の部屋に持って行ったことをアリアは知っていた。 やはりあの調子では何も見つからなかったという事か。
 知らずの内にため息をついていたらしい。 ラースローがアリアをじっと見ていた。
「なにか…?」
「よそ見をしながら食べるな」
「は?」
「こぼしている」
「ええ?」
 見るとテーブルの上から膝の上、床までこぼれている。
「あー…」
 くくくくっと、ラースローはおかしそうに笑っていた。 ひねた、あの皮肉っぽい笑いではなく、本当に笑っていた。 こんな笑顔を見るのは初めてで、ついアリアも笑った。
「子供のようだ、おまえというやつは」
 笑いながらラースローが言う。 なにを言っている、じぶんこそ子供の癖に。とアリアは声に出さず笑い顔のまま思う。
「砂糖菓子もつくったんです。 食べますか」
 お茶と菓子を持ってテラスに運ぶ。 野バラの庭園が月明かりに妖しい色を出している。
「最近はさすがに涼しいですね」
「…」
「月が出ていますよ」
 ラースローは黙って月を見上げた。
 そんな素直な仕草が、アリアに笑みをもたらす。
「月は見ているんですよ」
「…何をだ」
「すべてを。 月明かりの晩には悪い事をしてもすぐにばれてしまうんだって」
「悪い事」
「ええ。 ずっと昔から月は人間のしている事を見ているんですよ。 母の口癖ですけど。 ラースロー様のお母君は?」
 ラースローは月を眺めた。 ラースローの生い立ちを知っているだけに余計なことを聞いたのかも知れないとアリアは思ったが、ラースローはポツンと言った。
「わたしは父も母も知らぬ」
 抑揚の無い声だったが、ラースローが自分のことを話したのは初めてだ。
「じゃあ、お互い孤児どうしってことですね」
 アリアはただ、そう言った。 それ以上掘り下げることもなく、ただ真実だけを。
 ラースローは月からアリアに視線を移した。 慰めや同情とは違う言葉を初めて聞いた。
「そうだな」
 そう言ってラースローはまた月を見た。

 翌朝ラースローが庭に出ているのをアリアは見つけた。 野バラを眺めている。
「おまえか」
「はい」
「出かける。 馬の用意をしておけ」
 とうとう時が来た。とアリアは思った。
「どちらへ。 わたしもお供しましょうか」
「留守中は屋敷の中にいろ。 空いている部屋はいくらでもある。 いつまでもうすぎたない小屋にいるな」
「どちらへいかれるのですか」
 もう一度聞いた。
「宮へ行く」
「どのくらい留守に」
「わからぬ」
「それではわかりません。 留守を預かる身としては、主人の帰りも把握しておかなければ、万が一というときに対処ができません」
 ラースローは背を向けたまま野バラを見ていた。 もっと食い下がるべきか、それとも疑いを持たれる前に切り上げるか、アリアは判断に迷った。
「十日、いや一か月になるかもしれぬ。 それはわからぬ」
 呪詛に必要な日数というところか。 シモーナに知らせなくては。
「宮に行くなら、私が従僕としてお供します」
「その必要はない」
 宮へ行くのは本当かも知れない。 だが、そのあとは? 
 アリアはあし毛の馬をなだめて小屋から出した。 昨日走らせたから、今日はおとなしいはずだ。
「ちゃんとご主人を乗せて走るんだぞ。 こないだみたいに暴走するなよ」
 立派な鞍と鐙、そして飾りをつける。
「よおし、男前だ。がんばれよ」
 ポンポンと鼻面をたたいてやる。
 ラースローの支度も手伝うが、所持品は少なく、ちょっと遠乗りに行くといった感じであった。
「ラースロー様」
 馬上のラースローがアリアを見おろす。 アリアは眩しくて手をかざした。 正真正銘の貴族のようだった。
「お気をつけて」
 そう言うのが精いっぱいだった。 これでアリアが街に行き、シモーナに告げればオリシスはラースローの後を追うだろう。 呪詛の場を見つけたら、ラースローはその場で殺されるかも知れない。 もし、本当に呪詛を行ったならば、それは当然の報いだ。 父もラースローに殺されたのかもしれないのだ。
 だが、憎むべきは違う相手なのでは?
 オレアル、ティスナ、そしてまつり事に関与しない国王。
 ラースローは馬を進ませた。 遠くなる背をアリアはいつまでも見送った。
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今の段階では物語がどの様に進むかはかり知れません。
しかし着実に事は進んでいた、のですね。
続きが気になります。もう一度初めから読み返してみようといつも思うのですが、なかなか(笑)。
またコメント寄せに伺います。

2006.11.09 20:53 URL | 一九 #- [ 編集 ]

一九さん いつもありがとうございます。
角煮さんの方にも寄らせて頂いています。

こちらはたらたらと続いていますが、次の構想もあるので本当に年末までには何とかしたいと…。
飽きずにおつきあいくださいね。

2006.11.12 17:16 URL | 武久縞 #- [ 編集 ]













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