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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 首都タニアの入り口で一行は足をとめた。 行き交う人々の数は多い。首都になるとこうも人の表情は違うものかと思う。 街のはずれでも明るく活気に満ちている。 田舎の物静かな陽気さとは異なり、もっと表も裏も空元気といった風だ。
 久しぶりに訪れたタニアに、少なくともエドアルドは戸惑った。
『こんなに活気があっただろうか』
「治世がうまくいっているんだな。街がこんなに栄えている」
ぼそりとアリアが言った。
「ここのところ、戦が無いからな」
オリシスが答える。
 家に寄りつかないといっても、オリシスの家敷はタニアの王宮に近い所にある。 領地は南方だが宮廷内に職務をもつワイナー家当主はタニアで暮らす方が多い。 オリシスも生まれも育ちもこのタニアである。 軍の役職についていた頃はカルマール家もそうだった。
「…だが、栄えれば栄える程、貧富の差が激しくなる。 今までの長い戦いで家や田畑を焼かれて食えなくなった農民がタニアに流れ込んできている。 裏通りを見ろ。 危なくてまともに歩く事さえ出来ない有り様だ」
オリシスの言うように、良く見ると物乞いやごろつきも少なくはなかった。
「陛下は知っているのか? この様子を」
オリシスはアリアのこの問には答えなかった。
「アリア。 ここではそんな話は」
エドアルドがアリアを窘めた。 アリアは眉をしかめて口を噤んだ。確かに兄の言う通りだ。どこに何者がいるかわかったものではない。 
「さて、昼飯にしようぜ」
 オリシスが馬から降りて勝手に一軒の料理屋に入って行った。 小さいが一見にして高価だとわかる面構えの店である。 エドアルドとアリアは顔を見合わせ、慌ててオリシスを呼び止める。
「おい待て。 おれ達はいい」
戸口から顔を出してオリシスはいいからと手招きをした。
「オリシス。 ここでそんな贅沢はできないんだ。 先は長い。 少しでも倹約しないと」
「つべこべ言うな」
「お主に奢ってもらう理由はないぞ」
「あいにくおれにそんな甲斐性はない」
威張る事でもないことを堂々と言ってのけながら、オリシスは二人を半ば強引に店のなかに連れ込んだ。
「まずワインをくれ」
席に着くなりオリシスは自分よりもはるかに礼儀正しい給仕に言った。
「おい、」
あきれ顔でエドアルドが言う。
「何事もはじめが肝心」
などとほざきながら素焼きの器で運ばれてきたワインを各自に注ぎ、オリシスは乾杯のまねをしてすぐ口に持っていった。
「あー、うまい。この季節のが一番味がいいな」
わけのわからない事を言いながら、あっと言う間に器を空にするオリシスを残りの二人は黙って見つめた。
 オリシスの頼む料理は、さすが侯爵家の子弟である。がしかしエドアルド達は戸惑うばかりである。 遠慮がちに手を動かす。 料理はうまい。 うまいが、こんな事をしていていいのだろうか。
そんな様子のエドアルドを見ながらオリシスは急にまじめな顔になった。
「エドアルド」
オリシスが無言で突き出す顎の先を、エドアルドは料理を飲み込みながら見おろした。
 そこにはちょうど店に入って来たばかりの紳士と、それを取り囲むような若い男女二人がいた。 紳士の頭にはかなりのはげあがっている。 着ているものは高価なものなのだろうが、そうは見えないほど品がない。 やたらにレースやら金銀装飾が体中にはびこっている。 そばにいる女性は、どうみてもその紳士の情婦という感じだ。 付き添っている男もどこかの子弟のようだが紳士に仕切にへつらっているようだ。 
「派手な一行だな」
エドアルドはオリシスに視線を戻した。
「見ていて気持ちいいものではないぞ。 なんだあのひきがえるみたいなやつは。 それにあの女の香水がここまで臭う。 気色悪い男もいるし」
エドアルドの脇から覗いていたアリアが言った。
「お前も香水のひとつぐらいつけてみろ。 女の気持ちがわかるかも知れない」
「私が女の気持ちがわかったってしょうがないだろう。 それにあんなひきがえるにひっつく気持ちなんて一生わからなくていい」
「おい二人ともいいかげんにしろ。 あれがどうしたんだ、オリシス」
エドアルドの言葉に、そうだそうだと思い出したようにオリシスが言った。
「あの男、見覚えないか」
エドアルドはもう一度彼らを見た。2階の階端からでは席についたひきがえるは背中しか見えない。
「うーん…」
「オレアルだ」
「え?」
「ヤーニス・オレアルだ」
オリシスはもう一度、はっきりと名を上げた。
 エドアルドは思いだした。 オレアルといえば、ただの騎士階級の男で、エドアルドの父エルネストの部下でもあった。 エドアルドの隊とは別だったが、彼の噂は聞いていた。 騎士としては下級であり、補給に廻されては表だってはいないが横領もしていたとか。 その後カルマール親子が軍を退いてからはぷっつり世間の話は聞かなくなったが。
 しかしあのオレアルがなぜあんな派手な格好で街を出歩いているのだ。
「いまや、飛ぶ鳥の勢いの側妃ティスナの覚えめでたき男爵様さ」
「男爵だと?」
 エドアルドとアリアは同時に声を発した。
「あいつは武より口で立つ方面に才能があったようだな」
オリシスはそう言うとぐいっと次のワインを空けた。
「そして今回、エルネスト・カルマール氏を謀反に陥れた首謀者でもある」
さりげなく言ったオリシスの言葉に二人は顔色を変えた。息を呑んで目の前のこの男を見つめる。それは誰も知らないはずだ。少なくとも二人はそう知らされていた。
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