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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 使っていない部屋の虫干しのために、アリアは部屋の窓を開けた。 片っ端から部屋の鍵をあけ、ガタついた鎧戸と窓を開ける。 窓の修理も本当はした方がいいのだろうが、そこまでの手間はかけられない。 倉庫のような部屋の窓も開けた。 かび臭い匂いに新鮮な空気が混ざる。 窓から差し込む光を頼りに部屋の中に積もれたものを見回した。
 古い家具や衣装箱、埃のかぶった調度品。 白い布がかけられた数枚の額。 布をめくると誰かの肖像画のようだ。 何枚かをもって階下に下りた。
 台所の隅で肖像画の埃を払う。 全てが肖像画で大きいものから小さいものまで様々だ。 ふと取り上げた小さい肖像画の人物に、アリアは目を奪われた。 ほっそりとした貴婦人が椅子に座って微笑んでいる。 驚いたのはその面立ちだった。 まるでラースローが女装をしたかのようによく似ていた。
「誰、これ」
 額の裏を見ても何も書いていない。 絵の古さや描かれた衣装からみると、一昔前のもののようだが。
 埃を充分に払った後、書斎にその内の数点を運んだ。 それをラースローが素早く見つけた。
「何だこれは」
 むっとした表情。 今朝の事がまだ尾を引いているのかとアリアは思う。
「ええ。 バラのかわりに絵を飾ろうかと思って」
「どこからそんなものを持ってきた」
「三階のいちばん奥の部屋です」
 ほら、汚れも落としたし、と見せる肖像画にラースローは益々眉をしかめる。
「ここはわたしの屋敷だ。 関係無い者の肖像画を飾る気か!」
 ああそうか、とアリアは思った。 よほど価値がないかぎり一般的には肖像画はその家系の者を飾るものだ。
「あ、でもこれ見て下さいよ。 この方、ラースロー様によく似てますよ。 それにこっちもなんとなく」
 他の肖像画もこの女性の家族のものならば、似ていても不思議はない。 そう思うと本当にどの肖像画もラースローの面影があった。
 なにをばかな、といった表情で絵を見たラースローだったが、次の瞬間には目を離せない様子だった。 もう一度椅子に座る女性の絵を見たあと、もう一度アリアに聞いた。
「この絵はどこにあった」
「だから、三階の…」
 ラースローは額を片手に三階へと上がって行った。 今まで屋敷内は自室と食堂と客間と書斎、そしてあの小部屋しか行かなかったラースローだ。 いちばん奥の部屋の扉を開ける。 北側の小さい窓からはほんの少しの光しか入らない。 その中でラースローは真剣な、いや思い詰めた表情で荷もつや家具をひとつひとつひっくり返していった。
 後を追ったアリアは薄暗い部屋の中のラースローの姿に呆然とした。蝋燭を用意し、部屋の中を灯す。 いつも書斎と奥の不気味な部屋しか関心がないラースローとは全く別人のようだった。 いったいこの部屋で何を探しているのだろう。
 アリアはそっと部屋を出て、台所の裏で薪を割りはじめた。 薪は生活に必需だ。 台所でも湯を沸かすのにも薪がなければいけない。 寒い夜には暖炉もつける。 冬までここに居る事もないだろうが、たくさんあるに越した事はない。 剣を持つ手では薪を割るぐらいで肉刺など出来ないが、かなりの重労働ではあった。 しかし体を動かしながら考えるには調度いい。
 ラースローに何か変化が起きた事はわかる。 オレアルとラースローのつながりはなんなのだろう。 そもそもなぜラースローはオレアルに言われて呪詛など行っているのか。 まだ確証はないが、あの知識ならば呪詛を知っていてもおかしくはない。
 ラースローはオレアルに何か弱みでも握られているのだろうか。 あの気性でただ利用されているだけとは思えない。 面倒な事を自らするような性格ではないのだ。 ラースローはオレアルから逃げたいのではないか。 その証拠にオレアルの用意した使用人達をやめさせてしまった。 あの白い人形はラースローの仕業なのか。 いや人形はアリアの所にもあったのだ。 なのにアリアは手元に残した。 あんな稚拙なことはラースローはやらない。 もっと辛らつに、そう家令を辞めさせたようにするだろう。
 オレアル。 ひきがえるのようなと言ったら、ひきがえるの方が気を悪くするかも知れない男。 アリアは自分の手をさすられた感触を思いだし、ズボンで手の汗を必要以上に拭った。 あの男は男に興味があるのか。 気色悪い。 騎士団や王族にはそれほど珍しくない性癖だと聞いた事がある。 それはともかくとして、オレアルのは変態の類だとアリアは思った。
「!」
 ラースローが十二歳の頃にオレアルに保護されたことをアリアは思い出した。
「まさか…」
 拭おうと思っても拭えない仮定が頭の中を支配した。 それは弱みではない。 恨みだろう。 ならばなおさらオレアルの言いなりになるラースローがわからない。
 あのわがままな態度。 ヒステリーな性格。 他人に興味を持たず…。 そのラースローが今朝、アリアの指の心配をした。 断らなければよかったと後悔した。
 彼は心を置き去りにした子供だったのだ。 必死にそれを取り戻そうとあがいているのではないか。 冷淡な態度とは裏腹の感情の起伏の多さ。 子供がずるい大人達に対抗するには、自分を守る術を身につけなくてはならなかった。 心につけいる隙を与えないわがままで扱いにくい子供。 利用される事を利用した。 そして宮廷でうまく立ち回るための冷静さと他人をけおとす冷淡さを。
 アリアは自分の過去と重ねた。 自分にはまだ家族がいた。 厳しい父も優しい兄もいた。 遠い国の話をしてくれたオリシスもいた。 だがラースローにはなにがあっただろう。 家族もなくあるのは知識だけ。
「家族」
 アルマーシ公爵の跡取り。 あの肖像画。 ラースローはつながりを求めてあの部屋を捜索しているのでは。
 気が付いたときには薪の山が出来上がっていた。 これくらいあれば当分は薪を割らずに済む。 汗でシャツやズボンを滴らせるほどになっていた。 屋敷の上を汗を拭いながら見上げる。 まだあの部屋にいるのだろうか。
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平日ですのに更新なされたのですね。
田中芳樹氏風の表現がありますね。氏の作品をお読みになるのでしょうか?
七不思議ものをかいている人間のせりふではないかもしれませんが、謎がなかなか解決しない割には新たな謎がうまれ、作品にひきこまれて抜け出せません(笑)。
こちらへは宣伝しにお邪魔したつもりでしたが、また読みいってしまいました。さて、宣伝させて頂きます。CP外伝の別作品をはじめました、是非ご意見賜りたく思います。成丈早く更新していこうと思います。
またお邪魔します。

2006.10.25 02:31 URL | 一九 #- [ 編集 ]

一九さん、こんにちは。
風邪をぶり返し、なかなか起きあがれず…歳には勝てない武久です(泣)

田中芳樹氏の作品、読んでます。言われてみれば氏の表現使ってますね。自分ではわからないものです。

ラースローの謎、というか、謎はきっと謎のままでしょう。 もしかしたらそうなのかもしれない…という程度にとどめることになりそうです。

そちらにもおじゃましますね。CP外伝楽しみです。

2006.10.29 18:57 URL | 武久縞 #- [ 編集 ]













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