オレアルは肘掛けに背をもたれ、ぞんざいに足を投げ出して座った。 部屋の四方を眺め廻す。 ねっとりとした視線がラースローの顔でとまった。 ラースローは軽く視線を外した。
「前に来たときと随分雰囲気が変わったな」
「変わったことなど何もない」
「何を言う、使用人はあの若いのだけだ。 なぜ皆をやめさせた。 よくやっていたようじゃないか。 何の不満がある。 食事はどうだ。 おまえは好みがうるさいからな。 あの若いのはちゃんとつくっとるのか。痩せたよう…」
しかしラースローにやつれた様子がないのを見て黙る。
アリアがいつもの茶を運んできた。
「ラジールのやめた理由はなんだった?」
ラースローからのいきなりの問いに、アリアはチャンと茶器の音を立てた。 ラジールがどうなったかラースローが知らないはずがないのに。 アリアはオレアルを見た。
「彼は書斎から調度品や書籍を盗んで逃げました。 運悪く事故にあったようで死にましたが」
「ああそうだった。 それからあの台所女は?」
「娘さんのお産があるそうで」
「若い女もいたな」
「庭師見習いと駆け落ちしました」
嘘半分、真実半分だった。 どのみち家令がオレアルの手先なら本当の理由をすでに報告されているだろう。 だからといってそれをラースローに言う訳にもいかないことぐらいオレアルにもわかっているらしい。
「家令はわたしがやめさせた。 使用人の管理もできない家令なぞ必要ない」
オレアルはぐぐっと喉をならした。 さらにものを言えない様子だ。
「おまえはもういい」と片手を上げるラースローの言葉に従い、アリアは台車をおして下がった。
アリアの後ろ姿を執拗なほど眺めてから、オレアルは締まりの無い口元をラースローに向けた。 今さっきまでむっつり押し黙っていたのがうそのようだ。 ラースローは顔をしかめていた。
背もたれから身を起こして、オレアルは話題を替えた。
「とうとうマテオ様がメルキオ殿下の継承者になったぞ」
意気込んだオレアルの顔は紅潮している。
「ふん」
鼻で笑うラースローにオレアルはもっと身を乗りだした。
「ティスナ様からの伝言だ。 早々に発つようにと」
「焦らなくても継承者はすぐには変わらない」
「だが陛下はわからん」
ティスナの心配は国王オルギウスの年齢だとオレアルは言った。 マテオとメルキオを順に片づけるには時間がものを言う。 それまでオルギウスが健在だという保証はない。
「マテオ様の死を見届けたら、ラースロー、おまえは晴れて公爵様だ」
ラースローの片方の眉が上がった。 何度その手に乗せられたか。 しかし…。
「確証はあるのか」
「はっきりそう申された。 この屋敷ももともとはアルマーシ公のものだ。 ほとんど認められたも同然ではないか」
「よかろう。 ナミルの準備を整えてくれ。 それからだ」
「ナミルでいいのか? あそこは」
「タニアに近く、霊がこもっている。 早く片づけたいならあの場所が最適だ」
オレアルはしばらく考えていたが
「わかった」
としぶしぶうなずいた。
「ところで、あの若いのを呼んでくれんか。 お茶のおかわりがもらいたい」
締まりのないオレアル顔を上目遣いで睨みながら、こいつからまず呪い殺してやろうかとラースローは思った。 相変わらずの変態野郎め。 体が震えるのをぐっと堪える。 公爵家拝領の件がなければ、真っ先に殺してやる相手だ。
ラースローは手を伸ばして呼び鈴を持った。
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「前に来たときと随分雰囲気が変わったな」
「変わったことなど何もない」
「何を言う、使用人はあの若いのだけだ。 なぜ皆をやめさせた。 よくやっていたようじゃないか。 何の不満がある。 食事はどうだ。 おまえは好みがうるさいからな。 あの若いのはちゃんとつくっとるのか。痩せたよう…」
しかしラースローにやつれた様子がないのを見て黙る。
アリアがいつもの茶を運んできた。
「ラジールのやめた理由はなんだった?」
ラースローからのいきなりの問いに、アリアはチャンと茶器の音を立てた。 ラジールがどうなったかラースローが知らないはずがないのに。 アリアはオレアルを見た。
「彼は書斎から調度品や書籍を盗んで逃げました。 運悪く事故にあったようで死にましたが」
「ああそうだった。 それからあの台所女は?」
「娘さんのお産があるそうで」
「若い女もいたな」
「庭師見習いと駆け落ちしました」
嘘半分、真実半分だった。 どのみち家令がオレアルの手先なら本当の理由をすでに報告されているだろう。 だからといってそれをラースローに言う訳にもいかないことぐらいオレアルにもわかっているらしい。
「家令はわたしがやめさせた。 使用人の管理もできない家令なぞ必要ない」
オレアルはぐぐっと喉をならした。 さらにものを言えない様子だ。
「おまえはもういい」と片手を上げるラースローの言葉に従い、アリアは台車をおして下がった。
アリアの後ろ姿を執拗なほど眺めてから、オレアルは締まりの無い口元をラースローに向けた。 今さっきまでむっつり押し黙っていたのがうそのようだ。 ラースローは顔をしかめていた。
背もたれから身を起こして、オレアルは話題を替えた。
「とうとうマテオ様がメルキオ殿下の継承者になったぞ」
意気込んだオレアルの顔は紅潮している。
「ふん」
鼻で笑うラースローにオレアルはもっと身を乗りだした。
「ティスナ様からの伝言だ。 早々に発つようにと」
「焦らなくても継承者はすぐには変わらない」
「だが陛下はわからん」
ティスナの心配は国王オルギウスの年齢だとオレアルは言った。 マテオとメルキオを順に片づけるには時間がものを言う。 それまでオルギウスが健在だという保証はない。
「マテオ様の死を見届けたら、ラースロー、おまえは晴れて公爵様だ」
ラースローの片方の眉が上がった。 何度その手に乗せられたか。 しかし…。
「確証はあるのか」
「はっきりそう申された。 この屋敷ももともとはアルマーシ公のものだ。 ほとんど認められたも同然ではないか」
「よかろう。 ナミルの準備を整えてくれ。 それからだ」
「ナミルでいいのか? あそこは」
「タニアに近く、霊がこもっている。 早く片づけたいならあの場所が最適だ」
オレアルはしばらく考えていたが
「わかった」
としぶしぶうなずいた。
「ところで、あの若いのを呼んでくれんか。 お茶のおかわりがもらいたい」
締まりのないオレアル顔を上目遣いで睨みながら、こいつからまず呪い殺してやろうかとラースローは思った。 相変わらずの変態野郎め。 体が震えるのをぐっと堪える。 公爵家拝領の件がなければ、真っ先に殺してやる相手だ。
ラースローは手を伸ばして呼び鈴を持った。
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