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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

北宮の一角を借りたワイナー家の部屋に、オリシスは二人の男を招き入れた。 国王オルギウスへのご機嫌伺い、メルキオ殿下からの書状と贈り物の数々を届け、タニアの近況を伝えた使者一行のひとりはオリシスが旧知の知人であった。
 その使者、バルツァ家の当主サヌルスは年の頃は40代前半。 立派な口髭を蓄えている。 落ちついた雰囲気を持ち、頑固そうな所はカルマール氏と似て無くもない。 
 バルツァ家は強力な軍を持っている。 サヌルス自身、エタニアきっての武人である。 代々エタニア王家に仕えているが、その強力な軍隊は一度も王家に向けられた事がなく、王家から厚い信頼を寄せられている。 王家にとってみれば、自分よりも多く巨大な兵をもつ領主、豊かな土地の領主はいつも油断ならない内なる敵であった。 裏切りと寝返りの多いこの時代において、バルツァ家の忠誠はいつも王家にむいていた。
 もうひとりは若い。 タニアの近衛騎士団長カルロス・モドリッチ。こちらも名門貴族の出で、次男であるがため家を離れ騎士団に入り、若くその才能をオルギウスに買われて騎士団長にまでなった男である。
 二人ともオリシスにとって気の合う友人だった。
 だがそれだけではない。
「相変わらず飄々とした恰好をしているな、オリシス。 もっと北宮に出入りするべきだ」
 カルロス・モドリッチが言った。 きらびやかな服がよく似合う。
「そう見せなければならないんだ」
「うそをつけ。おまえのは地だ」
「そういうカルロス・モドリッチこそ、派手さは国王にも劣るまい」
「まあな、わたしの洗礼された美には…」
「なにをほざいている。 美よりも道化ものだぞ、それは」
 ひとしきり笑ったあと、むっつりとしていたサヌルスが飲み物を持って下がった侍女を見届けて言った。
「タニアからの使者はメルキオ様の書状を国王に渡した。 王位の第2継承権をマテオ様にという内容のものだ」
「間違いないか、サヌルス殿」
「間違いはない。 わしの目の前で書状にサインし、そのまま使者に託したのだ。 その返事をもってタニアに引き返すよう言われている」
 オリシスは深く息をついた。
「メルキオ殿下はよくご決断なされた。 帰ったらお伝えしてくれ。わが身に代えても必ず阻止すると」
「ああ。 しかしお主が表だって行動するのはどうかと思うぞ」
「お主はまだ地下面で動いて貰わなければならないことが多い。 とくに事が済んだあとはな」
 カルロスの言葉にオリシスは黙って顔をしかめた。
 エタニアの、いやメルキオの影で情報を収集し、それをもとにこの二人が行動を起こして対隣国との国交や領主達の動きを制してきていた。この三人が国王派を名乗ることで、王室内の分裂を防いでいるところがあった。 国王派のバルツァ家、ワイナー家の進言をメルキオが不承不承聞く、という構図だ。 全てはメルキオの指示ではあったが、情報を得て作戦を練るのはオリシスの仕事と言っていい。 オリシスが自由に動けるのは、いつも影の役割だったからだ。 しかしそれもうすうす宮廷内で知られるようになってきていた。 だからなおさらオリシスはワイナー候の不肖の息子、風変わりな異端児を装うのだ。
「あの坊やでは危ういな」
「エドアルドは坊やではない」
 カルロス・モドリッチは両手を軽く上げてうなずいた。
「すまない。 だが、あの美しい暗殺者の事もある。 彼女、あのままティスナに付かせていたらどうだ? うまくすれば情報が入るかもしれないぞ」
「ラティアのことは計算違いだったが、おかげでエドアルドが救われた。 だが、あのままでは、こちらの情報もいつ漏れるかわからない。 逃す手はずは整えているが」
「そう、そのタニアでのティスナ妃襲撃事件だ。 正式には発表されていなが、かなりな捜索が行われているぞ。 カルマールの小倅の存在は、とうに向こうに知られている」
 そして声をひそめて
「殿下も今回の事からはエドアルドを外せと言っておられる」
 オリシスは腕組をして黙った。 サリエルも何も言わない。 カルロス・モドリッチだけが優雅に足を組み、ワインの杯を口に運ぶ。
 つぶっていた目を見開いてオリシスが言った。
「これは私怨だ。 エドアルドに討たせるのが妥当だ。 おれはそう思う。 そもそもそれを建て前として立てた計画だ。 エドアルドがいることで、どうにでも言い訳がたつ」
「むろん、私怨」
「だが国命がかかっている」
「だから、だ。 どう転んでも立て直す要素を残しておかなければならない。 エドアルドは残す。 あいつに仇を討たせる」
 サリエルとカルロス・モドリッチはお互いに顔を見合わせ、オリシスの表情を読もうとした。
「お主はエドアルドと仲がいい。 ここで手を引かせれば、エドアルドは国外に逃亡させることができる。 その機会を逃すのか? それとも彼を手駒にしておくのか?」
 サリエルが慎重に聞く。
「どちらでもない。 おれにとって大切なのは…」
「エタニア国か」
 オリシスは答えなかった。
「殿下に伝えて貰いたい。 エドアルドは役に立つ。 おれがそうさせる。 奴らが動く前にナミル警護の指揮権をサリエル殿に移す工作をしていただきたいと。 動きがあったらすぐタニアに知らせる。 引継を理由に、サリエル殿はナミルに向かって貰う。 オレアルの動きを封じる。 どちらが前後するかは分からないが、呪詛の痕跡があれば、その者はエドアルドが切る」
 それはラースローの存在があれば、と同義語であった。 サリエルが頷いた。
「カルロス・モドリッチ。 お主はマテオ様の身辺に注意してくれ。 それとタニアの守りを頼む。 ほかの領主たちや近隣諸国が騒ぎだすと困る」
「承知。 近衛騎士団の半分はもともとタニアに残っているからな。 継承権を得たマテオ様の警護と言えば、陛下もタニアに戻ることに反対はなさるまい」
「シルバキアの領事は薄々感じているようだ。 リンデアも国交回復のためのカミラ様が亡くなられたことで真相を追求しているふしがある。 介入を防ぐためにも事は敏速に。 国王の連れている諸候の軍がタニアに流れ込む事も有り得る。 その時は一兵たりともも城壁の中に入れるなよ」
 うむ。 と両氏がうなずいた。 席を立つ前、思いだしたようにサリエルが言った。
「タニアの若い騎士達がコーツウェルに紛れ込んで来ているようだ。 血気盛んな奴らだ。 なにをしでかすかわからん。 ただの物見遊山かもしれんが、監視するにこしたことはないぞ、オリシス」
 サリエルとカルロス・モドリッチはワイナー家の部屋を出たが、オリシスは最期の言葉に引っかかった。 監視する? どこにそんな手があるというのだ。 しかし姿を見せないエドアルドは…。
 オリシスは上着を脱ぎ、いつものくたびれた衣服を片手に部屋を出た。

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