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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

買い出しに出るのは久しぶりだった。 食料も生活用品も二人だけの生活ではなかなか減らなかったのだ。 アリア一人では手の込んだ料理はつくれなかったし、そんな料理を作れるというのも変だと思った。 だから質素な田舎料理しか出さなかったが、料理の品目にはラースローは文句は言わなかった。 むしろ味付けの文句は言うものの、アリアのつくったものの方をラースローはよく食べていた。
 初めの情報以来、エドアルドやオリシスには連絡をしていない。 使用人がアリア以外いなくなったことは、アリアが知らせなくてももうすでに噂から察しているかもしれない。 下働きの女達が呪詛の人形の事を黙っているとは思えなかった。
 腐りにくい食料を馬車に積み、ワインを買い、ラースローに頼まれた蝋燭や瓶や得体の知れないひからびたものを買う。 その店に行ってラースローのメモを見せると、紙にくるまれた品物を渡される。 これはなんだと聞くと、店主は薄気味悪い笑いを浮かべ、なんとかを干したものだと言ったが、なんとかの部分は聞き取れなかった。 別に本当に知りたかった訳ではないのでそのまま店を出たところに、影があった。
 知らぬ顔で馬車に戻る。影も別の方向を向きながら、馬車の近くに止めてある馬の手綱を取った。
「ああ、どうしよう!」
 アリアが必要以上の声を上げる。 そしてまわりを見て影の人物を捉えると
「すいません。 車輪の軸が折れちゃったようで、ちょっと手を貸してくれませんか」
 と言った。
 影は黙って頷くと、かがみこんで馬車の車輪の様子を見はじめた。
「ラースローは殆ど外出しないし、外との連絡も取っていないようだ。 屋敷に来る者もいない。 そっちはどうだ、兄上」
 小声でアリアがエドアルドに呟く。
「たいした進展はない。 タニアからの情報もないようだ」
 短く答えて、車軸にも手を伸ばす。
「オリシスたちはどうしてる」
 動かしていた手を止めて、立ち上がった。 手をはたいて埃を落とす。
「もうじき片がつく。 おまえも頃合を見計らってあの屋敷を出ろ」
 この前も感じた事だが、エドアルドは変わっていた。 思い詰めたような目をしている。 思慮の深さを感じられない。 何があったのか。 タニアに残っていたときに何を見たのか。
「ちゃんと話してくれ。 何かするつもりなのか?」
「心配するな」
「ラースローはどうする」
「小物はほおっておけ。 雇い主が無くなれば、自然に排除される」
 アリアは思わずエドアルドを見つめた。 何かを言いたくても何を言っていいかわからない。 自然に排除されるなどという言葉はエドアルドから聞きたくはなかった。 相手がラースローだからではない。 知っているエドアルドはそんな言葉は使わない。 もっと真摯に物事を取り組む質だ。
 エドアルドは衣類をただしてアリアに軽く会釈した。
「大丈夫。 まだこれなら走れる」
「あ、ああ。 ありがとう」
 すれ違いざまにさらにエドアルドが呟いた。
「オリシスに気を許すな」
 振り返ってアリアはエドアルドが馬に乗って歩み出すまで見ていた。
 何を言っているのだ。 オリシスが…? エドアルドとオリシスの間に何があったのだ。 仲たがいをしてどうする。 いや、あれは単なる喧嘩をしている言い方ではない。 自分にまで警告するのはオリシス自身に問題があるようなものだ。 アリアは馬車を屋敷に向けて動かしはじめた。 伏せ目がちに街の様子を伺う。 どこかにオリシスかシモーナがいるように思えた。 誰でもいい。 この状況を説明してもらたかった。 

「ラティアさんには逃げ出す手筈を整えると伝えました」
 シモーナの報告にオリシスはただうなずいた。 北宮にはたまに出仕しているが、オレアルを毎回見かけるのに対し、ラースローはしばらく姿を見せてはいない。 屋敷の人間を解雇した事でオレアルと顔を合わせづらいのか。
「エドアルドからは?」
「連絡はございません」
 何をやっているんだ、とオリシスは舌打ちした。 エドアルドもこのところ顔を見せない。 どこにいるのか、居場所を知らせない日が続いていた。
「タニアからの使者が来る頃だ。 しばらく家の方にいる。 連絡はいつも通りの方法で」
「かしこまりました」
 シモーナは窓から通りを見た。 小さな荷を積んだ馬車が下を通る。 帽子の下に揺れる赤い髪。
「アリア様は如何なさいます」
 オリシスはシモーナに向かず、言った。
「ラースローはそのうち動き出す。 行動を探るなら、近い存在になった方が探り易いだろう」
「そうかもしれません。 使用人達の事はラースローから動いて問題を無くした訳ですから。 でも逆になぜラースローはアリア様ひとりを残したのでしょう」
 わからなかった。 オレアルの手先でないことを省いたとしても、全ての使用人を取り替えた方が安心出来るはずだった。 アリアの世間ズレしたところが気に入っただけかもしれない。 あの男が自分にとって価値の無い者を必要以上に扱う訳がない。
「アリアは大丈夫だ」
 シモーナにはオリシスのアリアに対する自信がどこからくるのかが疑問だった。 なにがあっても崩れない強い絆を感じているかのように。
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