夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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「おまえの出会うべき相手だ」
 ラースローは何の事だかわからない事を答えた。毒をなめておかしくなったのではないか、とアリアは眉をひそめてラースローを見た。
「おまえは誰かと出会うべくこの世に生まれてきた。 そういう宿命を背負っている」
「なんでそんなことがわかるんです。 出会うべき相手って何者なんですか?」
「わたしには人の過去を読む力がある。 そいつがどういう生き方をしてきたか、見える」
「まさか」
 アリアの背中に悪寒が走った。 過去を読むだなんて人間がこの世にいるものか。 いや、過去を読む占い師もいるのだ、ラースローもその類の人間かも知れない。 もしそうだとしたら、この屋敷に何をしにきたのかすでに分かっていると言う事ではないか。 それともすべて承知で自分をここにおいているというのか…。
「その相手に出会って、どうなるんですか」
「知らん」
「知らんって、」
「読めるのは過去だけだ。 先の事はわからない」
「だって、出会うってこれからのことでしょう?」
「過去もそうだったということだ。だから繰り返す」
「信じられない」
「初めに言っただろう。 おまえは面白い相をしていると」
 この屋敷に来たときにラースローはアリアに面白い顔をしていると言った。
「あれって、これのこと?」
「べつに言うつもりはなかったが、おまえを見ていると面白くてな」
 くーっとアリアは歯ぎしりをした。 この男と話をしていると頭がおかしくなりそうだ。
 過去を読む男の話など信じられなかったが、いい機会だ。ついでに聞いてみようとアリアは気を取り直した。
「ほかに何ができるんだ?」
 いつの間にか言葉遣いが落馬の時にもどっていることをアリアは気が付かなかったが、ラースローの態度にも特に変化はない。
「ほかにとは?」
「例えば、…死者を蘇らせるとか」
 いきなり呪詛の事を持ち出す訳にもいかず、適当な事を言ったが、ラースローはあっさり「だれか呼び出したい死者がいるのか」と言った。
「出来るのか? そんな事が」
「条件があるが、出来ない事ではない」
 とっさにアリアは父親の事を思った。 父を呼び出せば誰が父を殺したのか、誰が本当の仇なのか分かる。
「条件とは?」
「故人の濃い持ち物が必要だ。 遺体や髪や血ならなおいい」
 血のついた剣はエドアルドが持っている。 髪も遺体もない。 とそこまで考えて、アリアは首を振った。 信じられるわけがない。 そんなことが出来るわけが…。 だが、呪詛はその類ではないのか。
「もうひとつ。 いったん呼び出した死者は、その輪廻を狂わせると言われている。 安らかな死を妨げるのだ。 もはや生まれ変わっている人物の呼び出しも不可能だ」
 ラースローは淡々とひと事のように言った。
「じゃあ、やっぱり輪廻ってあるのか」
「言われていると言っただけだ。 本当かどうかは知らぬ。 おまえはなぜそんなに輪廻にこだわる」
 アリアはしばらくためらった後に言った。
「前世の事を覚えていると言った人間がいるんだ。 東の方の国にも行った事のある…旅人で、それ以来頭に残っていて」
 言葉を切って、アリアは小さく首を振った。
「でも、その宗教を信仰しているわけじゃないから、自分にもそんなことがあるとは思えないな」
「そうでもあるまい。 東の宗教を信仰している者だけが生まれ変わるというのか? それこそ魔術だ。 人間の業は信仰によって変わるものではない。 宗教はその考え方の違いだけだ。 国や地域の習慣によって、人間がたどる業の重んじる部分が違うだけだ」
 静かに語るラースローの言葉は、自然にアリアに受け入れられた。 変人だと思っていたラースローがこんなにまともな事を言った事にも驚いたが、言葉の意味の方にもっと惹かれた。 ラースローはアリアが誰かを探していると言った。 あたっているのかもしれない。 気が付かないうちに夢の中の人物を探していた。 オリシスをそうかもしれないと思っていた。 出会うべき人物と言っていた。 過去もそうだったと言っていた。 その過去とは、ひょっとしたら前世なのではないかと思った。 東方の国の人間に起こる事ならば全ての人間に起こる事なのだと言ったラースローの言葉は、アリアの思いに潤いをもたらしてくれた気がした。
 しかしオリシスとは既に出会っている。 自分の出会うべき人物はやはり違うのではないか。 もし仮に同じ前世を共有しているとしたら、自分はオリシスにとってどういう役割をはたしていたのだろうか。 変えようのない事実が存在していると言うのに、出会えたからといって何が待っているのだ。
 ラースローはアリアが本を強く掴んでいるのを見ながら、冷めたお茶を飲み干した。 カタンと茶器をおく音を聞いて、アリアは我にかえった。
「あ、おかわりは」
「もういい」
 盆を下げて、アリアは書斎に戻った。 夕食の支度をする前にここの掃除をしなければ。 そのあとは馬にも餌をやり、そして洗濯物のシワを伸ばさなければならない。 やることはまだある。 のんびり考えている暇があるわけない。 あるわけがないのに、思いはラースローとの会話に還っていく。 過去を読むことや死者を呼び出すこと。 信じられないが、どこかで信じる自分がいる。 ラースローは普通の感覚をもってはいないが、自分はそれを嫌ってはいない。 もっと話を聞きたい。
 アリアは書斎の奥の扉を見つめた。

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毎回コメントしようとは考えていませんでしたが、あまりの展開にもの申さずにはいられませんでした。
10章に入って人物像がまたみえなくなりましたね!これはもう一度読み返す必要がありそうです(笑)。
これからも楽しみにしています。

2006.10.10 00:46 URL | 一九 #- [ 編集 ]

一九さん、いつもありがとうございます。
人物像の設定の甘さ…ですよね。気をつけます。

中盤を過ぎたので、ここまでのあらすじを書いているのですが、忘れてる箇所があり読み返す始末。
トホホです。

2006.10.12 12:39 URL | 武久縞 #- [ 編集 ]

舌っ足らずでしたようで、批判の文句とお受け取りになられましたならば謝ります。申し訳ありませんでした。
自分にとっては、それまでのそれぞれの登場人物達に抱いていたイメージが覆る事で、より一層、いきいきとなるように思えるのです。例えるなら、友人の初めて見せる横顔を覗いた様な。
あくまで自分の甘い考えなのですが、雪嶺一九は自分の作品の登場人物達にとっては父親でしかないと考えます。自分の登場人物達の事ならなんでも知っていると思っていても、気がつくと彼らの方が自ら歩き出している。彼らの運命を決めこそすれ、時として彼らはその運命すら打ち破る。まぁ自分に限っていうならば、あまり厳しく決めていないだけなのでしょうけれど。
こんな事いうと運命など大したものではないように聞こえますが(笑)。
あくまで、私論に過ぎません。別の方がこの物語を読み、武久縞さんが仰いました様な感想をお持ちになるかもしれません。ですが、雪嶺一九は肯定している、とお考え下さい。
続きの展開を楽しみにお待ち申しあげております。

追伸。笠七ではありませんが、時間稼ぎに小説を一本載せておきました。ご都合よろしければ、感想頂けますと幸いです。

2006.10.14 02:28 URL | 一九 #- [ 編集 ]

一九さん、ありがとうございます。むしろこちらの方こそよけいなお気遣いをさせてしまって、本当に申し訳ありません。
人物設定云々の話は、常々自分の欠点として自覚していることなので、やっぱりそうなんだなーと思ってしまったのです。ホント、すいません。

一九さんの仰ること、よく分かります。私も登場人物の父親というか、調教師というか、そんな存在だと思っていました。 その実、勝手にしゃべったり勝手に拗ねたり勝手にあらぬ方向に走り出したりする彼らの手綱を握るのが精一杯な有様。 
自由に走らせすぎると、自分の生い立ちを話し始める脇役なんか出てきますので、それはそれで楽しみのひとつでもあるんですけどね。

どうか、今後もよろしくお願いします。

2006.10.15 13:43 URL | 武久縞 #- [ 編集 ]













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