夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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 タニア領に入り、そろそろ遙か彼方に城壁が見えてくる頃、街道を避けて入った林の道にエドアルドとアリアはひとつの影を見つけた。
 エドアルドはアリアを振り向き、片手で腰の剣を押さえながら無言でうなずいた。近づくにつれ、その影は次第にはっきりと姿を現していった。 馬を路肩の木に繋ぎ、その木にもたれ掛かり腕を組んでいる男だ。 近くなった双方の距離に、相手が顔を上げた。
「待ってたぜ。 遅かったじゃないか」
「オリシス!」
アリアがエドアルドよりも先に相手の名を呼んだ。
 オリシスはニヤッと笑って、手綱を取った。呆然としてるエドアルドの隣に馬を並べる。
「…何しに来た。なぜこの道がわかった」
緊張気味のエドアルドの声に、オリシスは顔を伏せてクッと小さく笑った。
「勘違いするなよ。 別におれはお前たちをどうこうしようなんて思っちゃいないぜ。 家はまだ継いでないからな。何をしようとおれの自由だ」
「だから何しにきたんだと聞いている」
オリシスは声をたてて笑いながらエドアルドの背中をバンッと叩いた。
「おれも一緒に付いて行ってやるって言ってんだよ。 わからないやつだな」
エドアルドはますます訳がわからなく、オリシスの顔を見た。
 肩まで伸ばした不揃いの黒い髪を無造作にひとまとめに束ね、骨ばった輪郭には不精髭が生えている。 童顔のエドアルドに比べ、不敵に笑うオリシスにはどこか風来坊の感があった。 薄汚れた身なりは、とても侯爵の子弟には見えない。 形のよい眉の下の黒い瞳は、時折鋭い眼光を放つ。 そのせいで街でごろつき達と諍いを起こす事も少なくないのだ。
「冗談言うな。 お前が一緒だとロクな事がない」
エドアルドはそっけなく答えた。だが表情はほころびを押さえているようにも見える。
「水臭いな。 おれとお前の仲じゃないか」
オリシスはかまわず馬を進めた。
「オリシス、わかってるのか? 俺達は遊びに行くんじゃないんだぞ」
「わかってるから一緒に行くって言ってるんだ。 お前らみたいな世間知らず、野盗に喰われるのがおちだぜ。 おれがいると何かと役に立つと思わないか、なぁアリア」
話を振られて、アリアは一瞬ドキリとした。が、表情には出さずに淡泊に言う。
「私に二人の面倒は見切れないぞ。自分の事は自分でするなら、一向にかまわないが」
一拍の沈黙の後、エドアルドとオリシスは声を立てて笑い出した。 笑いを堪えながらひきつった声でオリシスが答えた。
「はいはいかしこまりました。 だがその言葉、忘れるなよ、アリア」
「誰が忘れるか。 自分の身は自分で守る。 お主はせいぜい争いを起こさぬよう心がけることだな」
むっとしているアリアを目の端に捉えながら、オリシスは肩をすくめた。

 エドアルドと同じ歳のオリシスは、古い侯爵家の息子でありながら、ふらりと旅に出ては諸国を巡っている風変わりな男だった。 父親のワイナー候から何度勘当を言い渡されたか、本人にも覚えきれないほどだ。
 彼の剣術の師範がエドアルドの父親であり、オリシスとエドアルドはいわゆる幼なじみという間柄である。 剣の腕は双方互角だが、躊躇いの無い分オリシスの方に分があった。 二人ともエタニアの軍に入り、遠征にも出かけた事がある。
 しかしオリシスは本来の性格の為か、今では役職に就くこともなく、家の手伝いをすることもなくフラフラしている有り様だ。 エドアルド達がタニアから田舎に引きこもっても、オリシスは何かにつけてはよくカルマール家に出入りしていた。 野や山や湖でひとしきり呆けた後、またふらりと出て行ってしまう。 そんな事を繰り返していた。
 真面目で実直なエドアルド。 不真面目で気ままなオリシス。 性格がこうも違うのに、二人は不思議なほど気が合っていた。
 
 オリシスが同行してくれる事は、エドアルドにとってもアリアにとっても心強いものであったが、
先が見えない事だけに侯爵家のオリシスを巻き込みたくはなかった。だが、オリシスは頼まれなくても厄介事に首をつっこむタイプの人間だ。彼がそう言った以上、何を言ってももはや無駄と言うものだ。
 エドアルドは既にオリシスの同行を許していた。
「オリシス、お主もいい加減落ちついたらどうだ。嫁も娶らずに好きな事をやっていては、ワイナー候が気の毒だ」
 オリシスの背にアリアが呟いた。
「そういうセリフはな、まず自分が一人前の家庭を持ってから言うもんだ。それにおれより先にエドアルドがいるだろ」
「もちろん兄上に見合う女性がいたら一も二もなくそうさせるが、そういうことではない。お主はれっきとした侯爵家の跡取りで、という話だ」
「おれはまだ縛られたくはないんだ」
「いつまでも子供みたいなことを言ってる訳にはいかないぞ」
「うるさいぞ、お前」
オリシスはアリアを振り返って睨みつけた。
「凄んで見せても私には痛くも痒くもない」
アリアにツンとすまされると、オリシスは今度はエドアルドに向かって言った。
「おいエドアルド、お前、躾がなってない。なんでこう、もっと素直に育てなかったんだ」
するとエドアルドも
「おれが育てたんじゃない。自ら育つのがカルマール家の家風でな、悪く思うな」
と答える。
「ちぇっ。頑固なところはホント、あのじじいにそっくりだぜ二人とも」
「父上はじじいと呼ばれるほど歳ではなかったぞ」
「わかったわかった、わかりました」
 オリシスのふてくされた声に、エドアルドもアリアも笑った。
 こんな風に笑えるのもオリシスのおかげだ、とエドアルドは思った。たしかにオリシスが同行するのは悪くない。 父の行方がわからなくなってから口数の減ったアリアが、こうして以前のように喋っている。 二人だけの道行ではとてもこういう風にはいかなかっただろう。 負担が軽くなった分、エドアルドは心持ち余裕を持てるかもしれないと感じていた。
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