夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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 若い給仕は自分の部屋の異様な雰囲気にすぐに気がついた。 しかし、何が異様なのかわからない。 不安のまま床に入った。
 翌朝、目が覚めた給仕は天井に吊るされたものを見た。 ベットの上に立ち上がり、おそるおそるそれを手に取る。 人形のようだ。 しかしひっくり返した時、給仕は紐を引きちぎり床に払い落としていた。

 馬の手入れをしていたアリアは、屋敷の裏から細い道へと走り抜けている影を見た。
「?」
 姿が誰かに似ているようだが、走っていくとは。
 飼い葉桶に餌をやり終わり、台所へ入っていくと、そこの女達が顔をよせあっていた。 またいつもの井戸端か、と自分で食事を盛りつけテーブルにつく。
「まさか、そんな…」
「ラジールの荷物も見あたらないんだよ」
 ラジールとは若い給仕の名前だ。 どうもいつもの会話と様子が違う。
「ラジールが、どうかしたのか?」
 アリアの問いに、彼女らはうるさそうに手を払って言った。
「いないんだよ、どこにも。 もう時間は過ぎてんのにさ」
「じゃあ、あれ、そうだったのかな」
「あれ、とはなんだ」
 呟いた声に応えたのは、家令だった。 いつの間にそこにいたのか、誰もの表情がこわばっていた。 ひとりアリアだけは答える。 小一時間ほどまえに走っていく姿を見かけた事を。
「あいつの部屋の床にこれが落ちていた」
 家令が差しだした手の上には、妙にのっぺらぼうな人形があった。 白い布で出来ており、頭と胴と手足がくびれているだけの人の形をしたものだ。 アリアが手に取って見る。裏返すと、そこに文字が見えた。
「…ラジール…」
 声に出していた。 まわりの女達が声にならない悲鳴をあげた。
「これは…」
「呪詛に使うものだ」
 家令がそう言うと、女達は今度は声をあげて人形をもつアリアから遠ざかった。
「だれが何のためにラジールを呪詛する必要があるんだ」
 とアリアは呟く。 それに、なぜ家令はこれが呪詛だと言い切るのだろう。
 家令は黙ったままだった

 アリアが手慣れぬ手つきで食卓を整える。 茶を継ぐ手が震えた。
 誰もラースローの給仕をしたがらなかった。 それもうなずける。 この屋敷の中で、呪詛の類を行えるのは、ラースローしか思い当たらないからだ。 それでなくともラースローは主人であるにも関わらず、この屋敷の中ではやっかいものなのだ。 しかし台所まで食事に来いなどと言えるわけもない。
「あの男はどうした」
 ラースローが言った。
「ラジールのことでしたら、彼は今ここにはいません」
 アリアは平然と答える自分に内心驚いていた。 手が震えたのは、ラースローを恐れた訳ではない。 もし、本当にラースローが呪詛を行ったのだとすれば、これほど有力な情報はないのだ。 証拠をつかみたいという高ぶった緊張からだった。
 いぶかしげな目をアリアに向けるラースロー。
 朝の癇癪は最近では幾分やわらいでいる。 少しではあるが、朝食も口にするようになっていた。
「暇を出した覚えはないぞ」
 その目をさらりと受けとめて、アリアは眉を曇らせた。 演技だろうか。
 朝食を終えた頃を見計らって、家令がラースローに事のあらましを告げた。
「出て行ったというならほおっておけ。 もともと手癖の悪いやつだったんだ」
「手癖って、」
 アリアが思わず口にした言葉にラースローが面倒くさそうに返す。
「書室の書物や調度品がなくなっている。 あの男が町で金にしていたのだろう」
「え?」
 初耳だった。
「あの部屋の管理はおまえにまかせていたはずだ。 職務怠慢だな」
 ラースローに言われてアリアは呆然とした。 確かに自分の仕事だ。 管理と言うのは、埃を払って品を磨く事だけではなかったことに、今更ながら気がついた自分が恥ずかしくなった。 しかしラースローは数ある書物の何がなくなったかまで把握出来るのか。
「すいません」
 身を固くしたアリアは、自分もここから出なければならないのかを案じた。 そればかりか失った品々の弁財をしろと言われたらどうする。それほどの蓄えはない。
「私が書いた下書きがある。 弁償する気があるなら、おまえが清書しろ」
 ラースローの口調は変わらず冷たい。 だが、それはここにいて良いということだ。 アリアは顔をあげて主人を見た。
「それから、あいつのかわりもおまえがやれ」
 どうせほかにやることはないだろうといわんばかりの言い方だ。
「はあ…」
 この男はいったい何を考えているのだろうか。 初対面では態度が気に食わないと言っていたはずなのに。 戸惑うアリアに背を向けて、ラースローは書室へ歩き始めていた。
「ラジールの件はいかがいたしましょう」
 家令が声をかけた。
「ほおっておけと言っただろう。 おまえの耳は飾りものか?」
 軽蔑的な答えに、家令が苦々しく口を歪めるのをアリアは見た。 何かがおかしい。 アリアは先ほどの失態を忘れてそう思った。
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