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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 ラースローが晩餐会に出かけた。 使用人たちはここぞとばかりに仕事をやめ、各々の部屋に散った。
 アリアは書室に入り、棚を眺めた。
 整理しているときには見つけられた無かったが、やはりここに証拠があるのかもしれない。
 それとも…。
 と、アリアは書室から通じる奥の部屋の扉を見た。
 この扉の向こうへはまだ入った事はない。 時折ラースローは奥の部屋に入り、食事も忘れて何かをしている。
 扉の取手に手を掛けた。 しばらくそのまま立っていた。 が、手を離して扉から離れた。 書室を横切り居間に戻る。 
 なぜ中に入ろうとしなかったのか、アリアは自分でもわからなかった。 あの扉の向こうにいけば、何かがわかるだろうとは思いながらも、今はその時ではないような気がした。 早く証拠を見つけ、兄達に知らせたい。 早く仇を討って、こんなわけのわからない世界からもとの静かな暮らしに戻りたい。 この気持ちは変わらないのに。
「何をしている」
 家令が居間に立っていた。 ぎょっとしてアリアは持っていた蝋燭を取り落としそうになった。
「眠れなくて、その、何か本を借りられたらと思ったのですが」
 家令はじっと細い目でアリアを見ていたが、
「早く寝ろ」
 と言っただけだった。
 アリアはほっと胸をなで下ろし、自分の物置小屋へ戻った。 あの部屋に入っているところを見つかったら、言い訳など立つわけがない。 もう一度大きく息を吸って、吐いた。 窓から書室が見える。 ふと、書室の窓に灯が動くのが見えた。 今度は隣、先ほど自分が入らなかった奥の部屋だ。
 アリアは静かに小屋を出て、奥の部屋の窓下についた。 中から紙をめくる音や、物を動かす音が聞こえる。 家令に違いないが、何をしているのだろう。 窓は高く、背は届かない。
 しばらくして灯は消え、音は何もしなくなった。 部屋を出たのだろう。 小屋に戻ってアリアは考えた。 どうも符に落ちない。 何を考えているのかわからない家令。 あまり仕事に熱心でない使用人達。 まだラースローの方が理解できそうな気がした。

 翌日、アリアは街へ馬車で出かけた。 食料やワイン、蒸留酒、そして食器の補充のためだった。 野菜や肉を買い、馬車へ積む。 ワインは上等の物を樽で運ぶ。 アリアともう一人の下僕とでは重労働だ。 最期に食器を買う。 店に入ると、あらかじめ家令が注文しておいたものを頼む。 店主が奥に引っ込むと、アリアは一息ついてカウンターに寄りかかった。 視線を感じてアリアは店の中にいる客を見た。
「!」
 エドアルドだった。 髪と眉を黒く染め、髭をつけている。 どこかしらやつれたようでもある。 ほかの商品を見るふりをしながら、アリアはエドアルドに近づいた。
「心配してたんだ。 どうしたんだ、その髪は」
「おれの身上がばれた。 おまえも気をつけろ」
「どういう…、オリシスには会ったのか?」
「ああ」
 店主が戻ってきた。 アリアは袖口からそっと、エドアルドの見ている皿に小さく折った紙を落とした。 そして品物を受け取り、馬車へ向かった。
『ばれた、とは。 やはり兄上はタニアで何かしたのだろうか』 
 食器の箱を藁にくるんで荷物の中に乗せた。 その上からまた藁を敷く。 下僕の男が馬をはずして手綱をアリアに手渡した。 後ろの店の中が気になったが、振り返る事はできなかった。 誰かに見られているようで、それがエドアルドの危険につながるようで、もどかしかった。
 荷馬車を走らせようとすると、狭い通りを豪華な輿のついた馬車が向かってきた。 通り過ぎるのを待つ。 中に乗っている人物の影が見えた。 ラースローだった。 隣には着飾った妖艶な貴婦人がラースローにしなだれかかっている。 ラースローの横顔は微笑んでいるように見えた。
「あいつも笑う事があるんだな」
 アリアは心の中で呟いた。 あれほど綺麗な女性がそばにいれば、微笑まない男はいないかもしれない。 しかし、屋敷の中でのラースローとはまるきり別人のように思えて、なにか釈然としないものがあった。
 屋敷への帰り道、農夫出の臨時雇である下僕との会話も上の空で、アリアは考えるともなく考えていた。 エドアルドのこと、屋敷の使用人達の事、ラースローの事。
 エドアルドの事はいい。 目立つのは自分も持っているこの赤毛だ。 これさえ隠せば、人に紛れる。 流れ者の多いこの時期のこの町ならば、下手に動かない限り大丈夫だ。 それにオリシスと会ったのならなお安心できる。 とアリアは自分に言い聞かせる。
 男にも女にももてるやつ、世渡りがうまいやつ。 屋敷内のラースローはそんなオリシスが言った印象とはかなり違った。 あのわがままなラースローから受けたのは、孤独だった。 あの性格で人との付き合いがうまく出来るとは思えなかった。 ましてや子供を呪い殺すなんて。 釈然としないのは、このことだろうか。 どちらが本当の姿なのだろう。 
 アリアは下僕の男に相づちをうちながら、そんなことをただ考えていた。
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理由は伺いましたものの、やはり更新がお早いですよね。この次はどうなるのだろう、という引き方をしても、待つ事に痺れてしまう前に続きが読めるという素敵なサイクルです。見習いたい、というより相方に見習わせたいものです。
自分のブログの方でも、新しく小説が載せられれば勝手ながら連絡させて頂こうかと企んでいますが、ご迷惑でしたら控えます。もっとも、今のところでは相方の第2話待ちですが。

2006.09.16 07:18 URL | 一九 #- [ 編集 ]

一九さん、こんにちは。いつもありがとうございます。
一九さんの小説楽しみにしていますので、新しく更新されたときにご連絡頂ければとてもうれしいです。
もちろん、ご連絡頂けなくとも、ちょくちょく貴ブログにおじゃまさせてもらっています。
これからもよろしくお願いします。

2006.09.17 18:57 URL | 武久縞 #- [ 編集 ]













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