夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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 コーツウェルの街はさまざまな人間が溢れかえっていた。 地元の農民と小さな街の住民、夏の宮へ移ってきた貴族とその使用人、そしてその流れに乗って商売に来た商人達。 もともと農園地帯の小さな都市に過ぎないコーツウェルは、この時期だけ人口密度がエタニア一に変わる。
 街の周囲に広がる広大な丘陵地。 所々に点在する林や谷間をぬう小さな川。 自然の地が夏の離宮の大きな庭園となるのだ。

 肩と肩がぶつかりあうほどの混雑の中を、アリアとオリシスは進んだ。 馬は宿に繋いである。 歩きながら街や路地を覚えるためだ。 夏に近いとはいえ、首都タニアに比べると気温も湿度もはるかに低い。 アリアの首のスカーフや長袖のシャツも不自然には見えない。
「すごい人だな」
「王族が来ればもっと増えるぞ」
 コーツウェル独特の田舎づくりの家や商店などは、アリアの目には珍しい。 店先に並んでいる野菜や果物までどこか違うように見える。
「こんなに人がいるなら、かえって見つかりにくいかもな」
 コーツウェルに入るまで、さらに狙われた。 だが初回と同じようにアリア達は怪我ひとつなくやり過ごしてきた。 もちろん相手は絶命している。
 顔と素性を知られている可能性は高かった。 オレアルが手を廻しているのかも知れないとアリアは思ったが、オリシスはどうもはっきりしない。 歩きながらオリシスはぼそりと言った。
「あれな、おまえには黙ってたけど、おれの客だったんだ」
「え?」
「あれ、全部おれ目当てだったの」
 オリシスは開き直って自分を指さしながらニッコリ笑った。
「なんだって!」
 アリアは顔を真っ赤にして握り拳をつくった。
「お主ってやつは!」
「おれも付き合ってんだから、おまえもおれのに付き合ってくれたっていいだろう」
「お主は勝手に首を突っ込んでるだけだろ」
 アリアはオリシスをおいてさっさと歩きだした。 腹が立った。
『まったくなんてやつだ。 こっちは必死になって人を切ったのに』
 だが、そうしなければ自分はどうだっただろう。
 人の命を絶つ事を知らないまま、この仇討ちを終わらせることが出来ただろうか。
 考え事をしながら歩いているアリアの肩に どんっ、何かがあたった。
「おい、どこ見て歩いてるんだ」
 ぶつかった拍子にその相手と向き合う形になった。
 それはアリアの二倍もありそうな体格の男達だった。 着崩した恰好と腰に差した大仰な剣を見ると、どうやら質の悪い種類の人間のようだ。
「おいぼうず、人にぶつかっておいて、何も言わない気じゃあねーだろうな」
 一人がアリアの腕に手を伸ばす。 それを避けて相手を睨みつけ、言った。
「横に並んで歩いてる方が悪い」
「なにぃっ?」
 三人の大柄な男達に囲まれるアリア。それはあの不意を食らった夜の状況に似ていた。
「このガキがっ。かわいがってやるから顔かしな」
 剣を抜いた一人がアリアの鼻先に剣先を向ける。
「きれいな肌をしてるじゃないか。 別な方法でかわいがってやってもいいな」
 アリアに悪寒が走る。 倒せない相手ではないが、一瞬体が動かなくなった。
 その時アリアはふと背後に温もりを感じて、肩の力が自然に抜けた。
 この感じはどこかで…。
「あー、悪いな」
 とぼけたようなオリシスの声が聞こえた。
 そうだ。 これは…、
「悪かったよ。こいつ口のききかたも知らないやつでさ。まだ子供なんだ、許してやってくれよ」  あの夢に似ているのだ。
 いや、もっと昔にも…。
 アリアの脳裏に別の世界のが映った。見た事もない場所。だけど自分はまちがいなく知っているとわかる。
オリシスは男達に金貨を三枚渡していた。
「これで一杯やってくれ」
 情けない態度ではない。 とアリアは思った。 オリシスはこの場で一番いい方法をとったのだ。 今ここで騒ぎを起こし、注目を浴びては元も子もない。
 男達は唾を吐き捨てて去って行った。
「まったく目が離せないやつだよ、おまえは」
 オリシスがアリアに向きなおる。 その目はいつもやさしい。
「どうした、大丈夫か?」
 見つめられたまま動かないアリアを、オリシスはのぞき込む。 その動作にもアリアは心をうたれる。 
 夢の中のあの人物は、オリシスなのだろうか。 それともオリシスから聞いた前世の話しがずっと自分の心に残っているだけなのだろうか。 あの夢を見始めたのはオリシスに久しぶりに会った頃からだ。
「まだ怒っているのか」
 オリシスは頭を掻いた。雲脂が落ちる。
「怒っているわけじゃない。 助けてくれて、…その、ありがとう」
 顔を背けてアリアが言う。
「おあいこだ」
 おあいこであるはずがない。
 一人残さず倒したにもかかわらず、待ち伏せするように襲ってくる相手。 早馬が走った様子もない。 殆どタニアの娼館から出ていないアリアの存在が知られているとは思えない。 初めはわからなかったが、ここまできてあの刺客の目的が自分なのだと確信した、とオリシスは言った。  
「狙われる理由ってなんなんだ」
「ほら、おれって泣かした女も多いし、」
「のらくらしてても、けっこう敵をつくるもんなんだな」
オリシスの言葉は何かを隠していることが多い。 それはもう、アリアにもわかった。 侯爵家の跡取りだ。 何もないわけがない。
「大丈夫なのか? 白昼堂々と街を歩いて」
「宿に戻ったら変装するサ。 連絡の途中に会っても間違えるなよ」
「お主こそ気をつけろ。 ひとの事もいいが、自分の身辺はなるべくきれいにしておくんだな」
 オリシスがどんな理由で敵をつくっているのかわからない。 さっきのような無類漢なら取るに足らないが、襲ってきた男達はある程度訓練されていた。 人を使って他国の情報を仕入れていると言ったが、オリシスがふらりと旅に出るのは、そのことにも関係があるのかも知れない。
 家の事業だけではなく、アリア達の知らない任務をオリシスは負っているのかも知れない。 しかし、アリアはその点については触れなかった。
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