出来上がった髪型はティスナを充分に満足させた。
「どう? ミストール夫人。 今までこんなに私に似合う髪型を結ってくれた娘がいたかしら」
ミストール夫人は気まずそうに顔をしかめていた。
「ティスナ様はどんな髪型もよくお似合いになります」
「そういうことを言っているのではないのよ。 じゃあ、ドレスも選んで貰おうかしら。 ラティア、そこの扉をあけて」
扉を開けると、この部屋と大差ない広さのもうひとつの部屋が現れた。 違うのは調度品や家具がある代わりに、目も眩むばかりのドレスやアクセサリーがその部屋を埋め尽くしている点だった。 ラティアは扉に手をかけたまま、しばし呆然とした。 一着づつ手に取ってみていたら何日もかかりそうだった。 手前の方の何着かを見る。 旅装に向いていそうな色が濃いめの服を選ぶ。
その服もティスナの気にいるところとなった。
「おまえは、もう私のものよ。 これから私の身の回りをいろいろやってもらうわ」
ティスナは自分でイヤリングをつけながら言った。 ミストール夫人はティスナの用事で部屋を出ていた。
「賢い娘ね、おまえは。 聞きたい事は山ほどあるでしょうに。 でも何も聞かない。 知りたい事を聞けば、自分の廻りの者に被害が及ぶと思っているのね。 地下牢にいたときも、何も喋らなかったそうね。 強情な娘。 気に入ったわ」
ティスナの香水がラティアの鼻を刺激する。
ティスナのものとは?
気に入ったとは?
確かに聞きたい事は山ほどある。 しかし、やはり何も聞けないのだ。
「あの男は無事よ。 もとの所に帰るでしょう」
嘘かも知れないが、ラティアはひとまず胸をなで下ろした。
「それからもうひとつ。 私を狙った者は逃げたわ。 おまえは誰をかばっているの? いいえ、いいわ、そのことは。 おまえがいた娼館の主人は何も知らない、ラティアなんて娘は見た事もないと言ったそうよ。 それもそうよね。 知り合いだとわかったら自分達の身も危ないもの。 おまえは帰る所もなくしたというわけ」
帰るところを無くした…。
その言葉にラティアは動揺したが、ティスナの口調では女主人も店もとがめは受けてないようで、それもラティアを安心させた。
「それでも人の口は止められないわね。 あの店には若い用心棒がいたようじゃない。 あの事件の何日か前に姿を消している」
ラティアは生唾を飲み込んだ。
「ここまで言えばわかるわね。 おまえがここにいれば、きっとその相手は現れる。 おまえはいわば人質なのよ」
ラティアの足元に硬いものが投げ出された。 祭の店でラティアが買い求め、ティスナを狙ったあの短剣だった。 ラティアはとっさに拾い上げて鞘を抜く。 そしてその刃を自らの胸にあてた。
と同時に高い笑い声が響いた。
「やっぱりね。 もともとおまえは私を殺す気なんてないのよ。 私の顔すら知らないもの。 かばっている相手は、おまえの大切な人ってわけね。 そしてじゃまにならないように自分を消そうとしている」
しまった。 とラティアは思った。 投げ出された短剣で自分ではなく、ティスナを刺すべきだったのだ。
「わかったでしょう? おまえが私のもとにいる訳が」
ティスナは扇で口元を隠した。 その下には妖艶な笑みがあるのをラティアは知った。
「会いたいんでしょう? その人に。 だからあの責めにも耐えたんでしょう? 会いたいのなら、ここにいるのね。 いずれ私の前に引き出されるわ」
それは考えたくもない予告だが、別の面から考えれば、その時に自分が居合わせる事でエドアルドに脱出のチャンスを与える事が出きるかも知れないのだ。 ティスナはこのことまで言っているのだろうか。
ラティアは短剣を鞘にしまった。
ミストール夫人が部屋に入ってきた。
「ご出立の時間です」
ティスナは頷いてラティアを伴い部屋を出た。
ポチっとお願いします→「どう? ミストール夫人。 今までこんなに私に似合う髪型を結ってくれた娘がいたかしら」
ミストール夫人は気まずそうに顔をしかめていた。
「ティスナ様はどんな髪型もよくお似合いになります」
「そういうことを言っているのではないのよ。 じゃあ、ドレスも選んで貰おうかしら。 ラティア、そこの扉をあけて」
扉を開けると、この部屋と大差ない広さのもうひとつの部屋が現れた。 違うのは調度品や家具がある代わりに、目も眩むばかりのドレスやアクセサリーがその部屋を埋め尽くしている点だった。 ラティアは扉に手をかけたまま、しばし呆然とした。 一着づつ手に取ってみていたら何日もかかりそうだった。 手前の方の何着かを見る。 旅装に向いていそうな色が濃いめの服を選ぶ。
その服もティスナの気にいるところとなった。
「おまえは、もう私のものよ。 これから私の身の回りをいろいろやってもらうわ」
ティスナは自分でイヤリングをつけながら言った。 ミストール夫人はティスナの用事で部屋を出ていた。
「賢い娘ね、おまえは。 聞きたい事は山ほどあるでしょうに。 でも何も聞かない。 知りたい事を聞けば、自分の廻りの者に被害が及ぶと思っているのね。 地下牢にいたときも、何も喋らなかったそうね。 強情な娘。 気に入ったわ」
ティスナの香水がラティアの鼻を刺激する。
ティスナのものとは?
気に入ったとは?
確かに聞きたい事は山ほどある。 しかし、やはり何も聞けないのだ。
「あの男は無事よ。 もとの所に帰るでしょう」
嘘かも知れないが、ラティアはひとまず胸をなで下ろした。
「それからもうひとつ。 私を狙った者は逃げたわ。 おまえは誰をかばっているの? いいえ、いいわ、そのことは。 おまえがいた娼館の主人は何も知らない、ラティアなんて娘は見た事もないと言ったそうよ。 それもそうよね。 知り合いだとわかったら自分達の身も危ないもの。 おまえは帰る所もなくしたというわけ」
帰るところを無くした…。
その言葉にラティアは動揺したが、ティスナの口調では女主人も店もとがめは受けてないようで、それもラティアを安心させた。
「それでも人の口は止められないわね。 あの店には若い用心棒がいたようじゃない。 あの事件の何日か前に姿を消している」
ラティアは生唾を飲み込んだ。
「ここまで言えばわかるわね。 おまえがここにいれば、きっとその相手は現れる。 おまえはいわば人質なのよ」
ラティアの足元に硬いものが投げ出された。 祭の店でラティアが買い求め、ティスナを狙ったあの短剣だった。 ラティアはとっさに拾い上げて鞘を抜く。 そしてその刃を自らの胸にあてた。
と同時に高い笑い声が響いた。
「やっぱりね。 もともとおまえは私を殺す気なんてないのよ。 私の顔すら知らないもの。 かばっている相手は、おまえの大切な人ってわけね。 そしてじゃまにならないように自分を消そうとしている」
しまった。 とラティアは思った。 投げ出された短剣で自分ではなく、ティスナを刺すべきだったのだ。
「わかったでしょう? おまえが私のもとにいる訳が」
ティスナは扇で口元を隠した。 その下には妖艶な笑みがあるのをラティアは知った。
「会いたいんでしょう? その人に。 だからあの責めにも耐えたんでしょう? 会いたいのなら、ここにいるのね。 いずれ私の前に引き出されるわ」
それは考えたくもない予告だが、別の面から考えれば、その時に自分が居合わせる事でエドアルドに脱出のチャンスを与える事が出きるかも知れないのだ。 ティスナはこのことまで言っているのだろうか。
ラティアは短剣を鞘にしまった。
ミストール夫人が部屋に入ってきた。
「ご出立の時間です」
ティスナは頷いてラティアを伴い部屋を出た。
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