夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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 今の自分の状況をどう解釈したらよいのかと、ラティアは兵士に連れられながら考えていた。
 鎖を解かれ、狭く薄暗い階段を登っていく。 後ろと前には二人ずつの兵士。 皆鎧をまとい、手には剣や槍を持っている。
「とうとう処刑されるのだろうか」
 と思ってみる。 しかし、自分を尋問していたときの兵士とは身なりが違う。 尋問時の兵士は鎧はつけてはおらず肌の露出した皮衣を着ていた。 手に鞭をもつその男達は、どこか異常な目つきをしていた。  今、自分を連れていく兵士達にはその異常さがない。 接する態度もどこかしら丁寧な感もある。
 階段を登りきり、重い鉄の扉が開かれた。 扉の向こうのあまりの白さに、ラティアは思わず目をつむった。 なのにまだ光が脳を直撃する。
 目をつむったまま歩かされた。 ここはまだただの廊下なのだ。 薄目を開けて光に目を馴らす。 装飾の施された広い廊下。 豪華な場所に圧倒されて、ラティアは初めて恐ろしさを感じた。 こんな所に住む人間にエドアルドは立ち向かったのだろうか。
 ひとつの部屋の前で兵士達は止まった。 大きな声で扉越しに自分達の到来を告げる。 すると観音扉が重々しく開き、ラティア一人が中に入れられた。 部屋はそれほど広くはないが、装飾や調度品は廊下の比ではなかった。 ほうけて廻りを見回すラティアは、部屋の奥中央に座る貴婦人に気がついた。
 黒く豊かな髪、くっきりとした目鼻立ち、圧倒される気品。
 思わずひざまづいていた。
 人間なんて一皮剥けば皆同じだと思ってきたのに、この女性には自分と何かを隔絶するものをラティアは感じた。
「殊勝な心がけね。ラティア」
 発せられる言葉にラティアははっとした。 尋問の時、自分の名前を言った覚えはない。 が無意識のうちに喋ってしまったのだろうか。 いや、異人さんだ。 自分の素性はもう知られてしまったのだ。
 何も言えずラティアはひざまづいたままだった。
「湯浴みをして、傷の手当をなさい。 それから、小さいけど部屋をひとつ用意するわ。 出発までそこを使うといいでしょう」
 思わずラティアは顔をあげた。 言っている意味がわからなかった。それに、いったいこの女性は誰なのだ。
「控えなさい!」
 貴婦人のそばにいる年輩の女性がぴしゃりと言った。 しかし、ラティアには「控えろ」という意味がわからない。
「頭を下げなさいと言っているのです。 これだから下賎の者は…」
 この言葉に、ラティアはかっと自分の頬が熱くなるのを覚えた。 そう言った女性を睨みつける。
「おやめなさい、ミストール夫人」
 優しいが冷たい声で貴婦人がミストール夫人なる者を制した。
「慣れない事もあるでしょう。 でも、じきに慣れるわ」
 
 一昼夜してラティアはミストール夫人に呼ばれてた。 ミストール夫人はつんと上を向いて、ラティアとは必要以外の言葉は喋らない。 傷の手当の時も薬を投げてよこしただけで侮蔑の眼差しで見下げただけだった。
 あてがわれた小部屋は、娼館の自分の部屋よりも広く、ベットは羽のように柔らかかった。 薬を塗った後は全てを忘れてただ眠った。
 いきなり入ってきたミストール夫人の目の前で着替え、髪を結い、薄く化粧をする。 全てが監視つきだった。 湯に入ったせいで傷が痛んだが、それでもラティアは背筋を伸ばして歩いた。
 連れられて入った部屋は昨日よりも幾分小さく、ベットやタンス、カウチなどが並べてある。 おおきな鏡台の鏡に向かい、こちらに背を向けている髪を垂らした女性が言った。
「髪を結い上げてちょうだい」
 鏡には昨日の貴婦人が映っていた。
 ラティアはゆっくり、重い足どりで近づいた。 鏡台に置かれているブラシを取り上げる。 自分の手が震えているのがわかった。 髪は波打つように背に流れている。 今のままで充分とかれているように思った。 髪をそっと持ち上げて毛先の方からブラシを入れる。
「さすがに手慣れているわね」
 ラティアは手を止めたが、またすぐに髪をとかし始めた。
「こんなに近くにいるのだから、私を殺す機会はいくらでもあるわ」
 ガタンとラティアはブラシを取り落とした。 小声ではあったが、はっきりとラティアには聞こえた。 ミストール夫人があわてて近づいたが、それはティスナの声を聞いたからではなく、ラティアがブラシを拾わず呆然としていたためだろう。 ミストール夫人の動きを手で止め、ティスナはにっこり微笑んだ。
「さあ、急いでちょうだい。 出発は近いのよ」
 鏡のなかの微笑みを見ながら、ラティアはブラシを拾った。 ブラシの埃を自分のドレスで拭って、そしてティスナの注文通りに結い上げていく。
 高貴な貴族だろうとは思っていたが、まさか、これがティスナ妃だとは。 自分を殺そうとした人間をそばに置いてなにが楽しいのだ。 それに、異人さんはどうなったのだろう。 頭が混乱して、何を考えたらいいのかラティアはわからなくなった。
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