夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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「殿下」
 アデリーヌの部屋から出たメルキオに宮廷の小者が耳打ちした。
 自分の執務室に戻ると、すでに一人の男が控えていた。 腰掛ける間もなく、メルキオは男に単刀直入に声をかけた。
「見つかったのか」
「はい」
男がひざまづいたままの姿勢でメルキオに差し出した。
大人の手のひら程の鏡である。細かい金の装飾がついた美しいものだった。
「確かにユーシスの使っていた鏡だ」
しかし鏡の部分に赤く文字が書かれていることだけが以前と違う。文字ははっきりと亡くなった王子の名が記されてあった。
「…カミーラの時と、同じだな」
鏡を持つメルキオの手が震えた。 メルキオは鏡を床にたたきつけてしまいたい衝動をかろうじて押さえた。
「メルキオ様」
「わかっている…!」
「鏡はユーシス様のお部屋の天井裏にございました。カミーラ様の時は床下。いずれにしましても宮廷内にあやしい者が紛れ込んでいると考えてよろしいかと」
「…うむ」
言葉少ないメルキオの返事に男は続けた。
「奥向きにわたくしの手の者を手配致しました。あとは証拠を掴み、背後にあるものを…」
「後ろにいる人物はわかっている! わかっているのに手が出せぬ!」
だんっ!と拳を机に叩きつけてメルキオは押し殺した声で男の言葉を遮った。
「なんとしても確たる証拠を掴まなくてはなりません」
「いつその証拠がとれるのか! その間にマテオやユリアも同じように呪詛されるのかもしれないのだぞ」
苛立ちを隠しきれないメルキオを前にしても、男の方は冷静な態度を崩さない。

 カミーラ王女は、高熱を出す数週間前から愛用していた手持ちの鏡を探していた。そのときはさして気にも止めていなかったが、王女の死に不審を抱いたメルキオが極秘に探させた結果、王女の居室の床下からカミーラ王女の名が赤く記された鏡が見つかったのだ。

 呪詛。

 この言葉がメルキオの胸によぎった。 相手を呪い殺す方法として、相手の鏡を使うのは最も効果的だ。
 だが、なぜカミーラを。 カミーラが死んで利を得る者がいるのだろうか。 隣国との国交に反対する国内の急進派か? それとも隣国の…。
 呪詛はもともとは異教徒のものだ。 しかし東のオリエンタルの国々や南の大陸との交易により大昔から文明が交差するこの地では、ありとあらゆる知識が流れ込む。 呪詛という人が人を呪い殺す方法も古くから伝わるものである。
 様々な仮説を立て、疑わしき人物には念入りな探りを入れたが、特定はできなかった。
 しかしユーシスまでもが熱病で死んだ時、カミーラはただの警鐘にすぎなかったのだと知った。
『あの雌狐め…!』
 父王が日増しに自分を疎ましく思っていることは、なによりもメルキオ自身がよくわかっていた。 それに油を注いでいるのが、あの側室ティスナであることも。 今回の事は父王が命令を下してないにしても、ティスナが絡んでいる事に間違いはないだろう。
 これは極秘に事を進めなければならない。 敵はティスナだけではない。 近隣諸国につけいる隙を与えることは何にも優先して避けなければならなかった。

「これほど強力な呪詛が出来る人物は限られてくるはずです」
男が言った。
「そして呪詛を行う場所も」
男はその場所を淡々と言葉を紡ぐ。
「おそらくナミル山かと」
メルキオが男を振り返った。
「ナミルは聖域だぞ」
「聖域なればこそ、です。容易に人が立ち入らない場所。たちこめる霊気。これを利用しない手はないと思われます」
メルキオは黙って考え込んだ。
 今更ナミルを探したところで、何も残ってはいないだろう。 だがナミル山を探る動きを見せれば何かが釣れるかもしれない。 相手の影を捕らえられたら次の手を打つことができる。 しかし……。 
「ナミルを探られた相手は、 マテオ様が継承者の位をお継ぎになった時必ず動き出します。 罠を張るならばそれが好機かと」
「マテオを犠牲にはできぬぞ」
「マテオ様が使った鏡を盗ませたりはいたしません。 本人が使用していない鏡では呪詛の効果は出ないでしょう。 時間は稼げます」
長い沈黙が訪れた。
 メルキオの額に汗が浮きだしていたが、拭う事すら忘れているようだった。
「誰を、ナミルに…?」
眉を寄せ、視線を落としてメルキオが言った。 探りを入れる人物は一体誰が。
「まずはメルキオ様が気づいてないと思わせる事が肝心です。 東の宮はおろか宮廷にも出入りせず、しかしまるきりの無名ではなく、世情に通判断力に優れ、腕のたつ人物」
思い当たる人物が一人だけいる。
「カルマールか…」
男は応えなかった。 応えない事が答だとメルキオはとった。
「あの男が果たして動くか…。 わかった、もうよい。 鏡は元の場所へ。 あとは追って沙汰する」
「は」
男が辞し、一人残ったメルキオは呟いた。
「カルマール…」
 8年前の事件がなければ、おそらく自分の右腕となっていた男。こんな形で会わなければならないとは。
「それもエタニアの為だ」
窓から差し込む夕日をメルキオは目を細めて見つめた。
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