「オレアルの屋敷に出入りする人間を探ってみたが、これといった怪しい人物の出入りはない。 外で会合しているようだが、外で会うのはオリシスも言っていたとおり、国王派の貴族だ」
エドアルドが話を続ける。
「オレアルが首謀者だとしたら、どこかで呪詛ができる人物と接触しているはずなのだが…。 それとも次の時まで連絡を取り合わないつもりなのかと思っていた。 とろがちょっとしたことが分かった」
オレアル家に出入りする使用人を酒場に誘い、酔わせて聞き出したところ、2〜3ヶ月薬草を探しに北方へ出向いていた医師が最近帰ってきたという。 オリシスが知っている人物とエドアルドが聞き出した医師が同一人物なら、タニアにしばらく居なかったことが証明される。 しかもその時期が呪詛の時期と重なるのである。
「そこで、だ」
ここでなぜかオリシスが仕切る。
「アリア。おまえ、北のコーツウェルに行かないか?」
「いきなり何の話だ」
「いいぞぉ、これからの季節は。 コーツウェルは夏の避暑地だ。 きれいな女がわんさとやってくる」
アリアは頭を押さえた。
「だから、わたしが女を見て何が楽しいんだ」
「楽しいじゃないか。 あ、そうそう、喰いもんもいいぞ。 寝床もいい」
「うっとおしい! はっきり言ってくれ」
アリアとオリシスのやりとりに、エドアルドはまだ迷っていた。 アリアが手当てをうけている間、オリシスから聞かされたアリアの間者の話である。
夏の間、王宮はそっくりエタニアからコーツウェルに移される。 オレアルが面倒をみているある人物の避暑地の別宅へアリアが使用人として入り込むのだ。
「名はラースロー。 アルマーシ公爵家の跡継ぎと言われている。 オレアルが探し出して面倒を見ているんだが、今日、陛下からコーツウェルに屋敷を賜った」
オリシスはオレアル宛の紹介状を用意すると言い、さらにラースローという人物について語った。
「ラースローは見つけだされるまでクレメンテの神学校に居た。 あそこは名の通りの神学校だが、学者の集まりでもある。 いろんな分野の専門家がその知識を持続するために、各地から聡い子供を集めて養育している所だ」
「クレメンテの神学校。 聞いた事がある。 修得した知識を外に出さないために、そこに入った人間は死ぬまで出られないと。 親が子供を叱るときにもその名前が出るくらいだ。 悪い子はクレメンテの坊さんにつれていかれるぞって」
アリアがうなずく。
「ラースローはアルマーシ家の跡継ぎということで出る事ができた。 まだ幼くて知識を充分に修得してなかったこともその理由だが」
「そいつは子どものくせに屋敷を賜ったか?」
アリアが聞く。
「いや、おれやエドアルドと同じか、少し下だろう。 クレメンテもなかなか口が堅くて調べるのに苦労したが、ラースローがクレメンテを出たのは推定12歳。 宮廷に姿を見せ始めたのは、たしか5年程前だ。 オレアルはそれまでの約6年間、なぜ彼を陛下にも知らせず面倒を見ていたのか。 何かを企んでいたのだろうか」
オリシスはそこで言葉をいったん切った。
「これは推測でしかないが、呪詛をやったのはラースローではないかと思う」
エドアルドとアリアが言葉もなくオリシスを見た。
「クレメンテには呪詛の知識も受け継がれている。 もともとは王族がじゃまな者を消すために用いられた術だ。 ラースローがそこに居る間に修得したとは思えないが、知識を持ち出す事は出来たかも知れない。 オレアルはそれを利用したんじゃないだろうか。 完全に使いこなせるようになるまで誰にも知られないように」
「そうじゃないって可能性は?」
「あのオレアルが利用価値のないものを面倒見るわけがない。 アルマーシ公の跡取りというだけでは何の価値もない。 下手をすれば陛下の怒りを買うだけだ」
しばらくは誰も言葉を発しなかった。 それぞれがそれぞれの考えを整理しようとしている。 その沈黙を破ったのはアリアだった。
「行くよ、コーツウェルへ」
エドアルドはアリアの声をうつ向いたまま聞いた。
「ラースローの行動を見張るだけだ。 屋敷への人の出入り。 ラースローの外出。 どこへ行くのか、何日家を空けるのか、それを逐一知らせてくれ。 あとはおれたちがやる」
オリシスの言葉にアリアはうなずく。
「オリシス様」
シモーナが青ざめた表情でひざまづいた。
「わたくしにやらせてください、その役目」
「だめだ」
「アリア様には荷が重すぎるような気がします。 わたくしなら…」
シモーナはちらりとアリアを見る。 その瞳にアリアは刺すような痛みを感じた。 シモーナはオリシスが好きなのだ。
「おまえに男装は似合わない。 必要なのは男だ。 女の使用人は台所仕事と部屋の掃除人にしかならない」
「ですが」
なおも食い下がるシモーナに、オリシスは冷たく、厳しく言った。
「口答えをするな。 これは命令だ。 おまえにはおまえの役割がある。 それを忘れるな」
唇を引き締めてうなだれるシモーナ。 それを無視するオリシス。
こんなオリシスを見るのははじめてだ、とエドアルドとアリアは思った。 そこには侍従の関係が見て取れるほどはっきりと存在した。 気の毒に思うのはシモーナを侮辱してるのかもしれないが、アリアはやはりシモーナを見ていられなかった。 オリシスの態度がまるで自分に向けられているような気がして、つらかった。 分を忘れて近づけば、きっと自分もシモーナのように厳しくはねつけられるだろう。 アリアはオリシスを、本当に遠い存在なのだと、改めて思い知らされる想いだった。
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「オレアルが首謀者だとしたら、どこかで呪詛ができる人物と接触しているはずなのだが…。 それとも次の時まで連絡を取り合わないつもりなのかと思っていた。 とろがちょっとしたことが分かった」
オレアル家に出入りする使用人を酒場に誘い、酔わせて聞き出したところ、2〜3ヶ月薬草を探しに北方へ出向いていた医師が最近帰ってきたという。 オリシスが知っている人物とエドアルドが聞き出した医師が同一人物なら、タニアにしばらく居なかったことが証明される。 しかもその時期が呪詛の時期と重なるのである。
「そこで、だ」
ここでなぜかオリシスが仕切る。
「アリア。おまえ、北のコーツウェルに行かないか?」
「いきなり何の話だ」
「いいぞぉ、これからの季節は。 コーツウェルは夏の避暑地だ。 きれいな女がわんさとやってくる」
アリアは頭を押さえた。
「だから、わたしが女を見て何が楽しいんだ」
「楽しいじゃないか。 あ、そうそう、喰いもんもいいぞ。 寝床もいい」
「うっとおしい! はっきり言ってくれ」
アリアとオリシスのやりとりに、エドアルドはまだ迷っていた。 アリアが手当てをうけている間、オリシスから聞かされたアリアの間者の話である。
夏の間、王宮はそっくりエタニアからコーツウェルに移される。 オレアルが面倒をみているある人物の避暑地の別宅へアリアが使用人として入り込むのだ。
「名はラースロー。 アルマーシ公爵家の跡継ぎと言われている。 オレアルが探し出して面倒を見ているんだが、今日、陛下からコーツウェルに屋敷を賜った」
オリシスはオレアル宛の紹介状を用意すると言い、さらにラースローという人物について語った。
「ラースローは見つけだされるまでクレメンテの神学校に居た。 あそこは名の通りの神学校だが、学者の集まりでもある。 いろんな分野の専門家がその知識を持続するために、各地から聡い子供を集めて養育している所だ」
「クレメンテの神学校。 聞いた事がある。 修得した知識を外に出さないために、そこに入った人間は死ぬまで出られないと。 親が子供を叱るときにもその名前が出るくらいだ。 悪い子はクレメンテの坊さんにつれていかれるぞって」
アリアがうなずく。
「ラースローはアルマーシ家の跡継ぎということで出る事ができた。 まだ幼くて知識を充分に修得してなかったこともその理由だが」
「そいつは子どものくせに屋敷を賜ったか?」
アリアが聞く。
「いや、おれやエドアルドと同じか、少し下だろう。 クレメンテもなかなか口が堅くて調べるのに苦労したが、ラースローがクレメンテを出たのは推定12歳。 宮廷に姿を見せ始めたのは、たしか5年程前だ。 オレアルはそれまでの約6年間、なぜ彼を陛下にも知らせず面倒を見ていたのか。 何かを企んでいたのだろうか」
オリシスはそこで言葉をいったん切った。
「これは推測でしかないが、呪詛をやったのはラースローではないかと思う」
エドアルドとアリアが言葉もなくオリシスを見た。
「クレメンテには呪詛の知識も受け継がれている。 もともとは王族がじゃまな者を消すために用いられた術だ。 ラースローがそこに居る間に修得したとは思えないが、知識を持ち出す事は出来たかも知れない。 オレアルはそれを利用したんじゃないだろうか。 完全に使いこなせるようになるまで誰にも知られないように」
「そうじゃないって可能性は?」
「あのオレアルが利用価値のないものを面倒見るわけがない。 アルマーシ公の跡取りというだけでは何の価値もない。 下手をすれば陛下の怒りを買うだけだ」
しばらくは誰も言葉を発しなかった。 それぞれがそれぞれの考えを整理しようとしている。 その沈黙を破ったのはアリアだった。
「行くよ、コーツウェルへ」
エドアルドはアリアの声をうつ向いたまま聞いた。
「ラースローの行動を見張るだけだ。 屋敷への人の出入り。 ラースローの外出。 どこへ行くのか、何日家を空けるのか、それを逐一知らせてくれ。 あとはおれたちがやる」
オリシスの言葉にアリアはうなずく。
「オリシス様」
シモーナが青ざめた表情でひざまづいた。
「わたくしにやらせてください、その役目」
「だめだ」
「アリア様には荷が重すぎるような気がします。 わたくしなら…」
シモーナはちらりとアリアを見る。 その瞳にアリアは刺すような痛みを感じた。 シモーナはオリシスが好きなのだ。
「おまえに男装は似合わない。 必要なのは男だ。 女の使用人は台所仕事と部屋の掃除人にしかならない」
「ですが」
なおも食い下がるシモーナに、オリシスは冷たく、厳しく言った。
「口答えをするな。 これは命令だ。 おまえにはおまえの役割がある。 それを忘れるな」
唇を引き締めてうなだれるシモーナ。 それを無視するオリシス。
こんなオリシスを見るのははじめてだ、とエドアルドとアリアは思った。 そこには侍従の関係が見て取れるほどはっきりと存在した。 気の毒に思うのはシモーナを侮辱してるのかもしれないが、アリアはやはりシモーナを見ていられなかった。 オリシスの態度がまるで自分に向けられているような気がして、つらかった。 分を忘れて近づけば、きっと自分もシモーナのように厳しくはねつけられるだろう。 アリアはオリシスを、本当に遠い存在なのだと、改めて思い知らされる想いだった。
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