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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 シモーナに手当をしてもらっている間、アリアとシモーナの間に会話はなかった。
 アリアは数日前に会った、あのきれいな男のことを思い出していた。
『あいつも初めは私を拒否した。 助けられるのが嫌だったようだった』
単なるわがままではなかったように思う。 あの男も過去に何か背負っているのだろうか。 あの怪我はもう治っただろうか。
「終わりました」
シモーナが声をかけた。
「ありがとう…」
アリアは薬を片づけているシモーナの横顔を見た。 この大人しく控えめな女性が、ワイナー家の諜報をしているなどと、どうして信じられよう。 
 女性を使う。 それはアリアの知っているオリシスではない。 自分の知らないオリシスがいる。 そう思うと心が痛い。
「不思議に思ってらっしゃいますね」
シモーナと声を交わすのははじめてである。 低く落ちついた声。 感情を自分で抑え込まなければすぐに熱くなってしまうアリアとは、まったく反対の性質だ。
「オリシス様のことは信用なさっても、わたくしのことはまだ警戒なさっているわけですね」
案外ずけずけとものを言う性格なんだ、とアリアは思った。
「ちょっと驚いただけだよ」
オリシスとシモーナの関係がそれだけではないという確信はない。
「なんでオリシスの為に、楽ではないこんな仕事をやっているんだ?」
「こんな、とおっしゃるからには、アリア様はまだ違和感をいだいているのですね。 ここの人たちに」
シモーナの真っ直ぐな視線にアリアは目を伏せていた。 
 違和感。 そうかもしれない。 自分はどこかまだ彼女達をさげすんでいるのかもしれない。
「あなたが男装しなければならないように、ここの住人もまた、生きるために努力をしているのです。 わたくしがオリシス様、いえ、ワイナー家のもとで働くのも、その仕事のためにここにいるのも、もとをたどればわたくし自身が生きていくためなのです。 勘違いをなさらないでください」
挑むような言葉であったが、シモーナの顔は微笑んでいた。
 アリアには何も返す言葉がなかった。 自分の本質を言い当てられたような気がした。 男の恰好をしているのは、その方が生き易いからだ。 それを微笑みながら言うこの女性を、アリアは初めて正面から見る事が出来た。
 透き通った蒼い瞳。 聡明そうな額。 栗色の髪。
 そうだ。 オリシスなら、きっとこういう人を選ぶだろう。 意志をはっきりと主張し、正確な判断で仕事を遂行する。 しかも笑顔が美しい。
「悪かった。 ちょっと落ち込んでいたんだ。 剣があればなんとかなったのに、腕力では全然男にかなわなくて」
こんなふうに言い訳する自分が、なんとも情けないほど小さい人間に思えて、言い終わってからため息が出た。
「アリア様はおやさしい方ですね。 人を傷つける前に自分をおとしめてしまう」
「自分をおとしめる? そんな事はない。 ラティアは反対の事を言っていた。 世間知らずだから平気で人を傷つけるって」
「いいえ、彼女は純粋なあなたの心に戸惑っているだけです」
「…純粋じゃないよ、私は」
シモーナはそれには答えず、
「男性に腕力で勝てる術があります。 剣が無くても負かすことができるのですが、よろしかったらお教えしますよ」
とアリアに提案した。
「妖術か?」
「まさか。 武術といいます。 東方の国のものです」
東方の国と聞いて、アリアは胸が痛んだ。 オリシスの旅にシモーナも随行したのだろうか。
「さっきから気になっていたんだが、その言葉使い、やめてもらえないかな。 私はシモーナの主人ではないのだから」
「ええ。 でもオリシス様とエドアルド様、アリア様は同じ世界に属するお方です。 わたくしはそういうお方に仕える側の人間です」
「人間にそんなあちら側もこちら側もあるもんか。 確かにオリシスは貴族だが、ただそれだけだ」
「そういうふうに思う事こそ、あなたがわたくしとは違う世界の人である証拠です。 わたくしたちのような人種は誰かに従属して、それで糧を得ているのです」
「貴族も王に従属してる」  
「従属ではありません。 契約しているのです。 騎士は王に忠誠を誓い、王は安寧を与える。 一方がその契約を破棄すれば無になるのです」
「おい、もうそのくらいにしてやれ」
オリシスが戸から顔を出した。 続いてエドアルドも入ってくる。
「シモーナはちょっと理屈っぽいところがある。 それはこいつの性質だ。 あまり本気で相手をするな」
「その理屈を教えて下さったのは、オリシス様です」
「ああいえばこういう、だ。まったく」
アリアはオリシスの苦い表情を見て、わからないようにまたそっとため息をついた。 オリシスにそんな表情をさせることができるのは、きっとシモーナだけだろう。
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なんというか、相変わらず丁寧な文章ですはい。
いや、丁寧なのは文章だけではないですね。
シーンの洗濯もかなり丁寧だと思います。
どういうシーン洗濯して書くかによって、そのキャラの造形決まりますからね。
そう言う意味でも丁寧なためにキャラクターが解りやすいです。
性格とか性質は自然とできあがるもの。
それがわたくしの持論でしたが、ここの小説はそれを実践している気がいたしました。
これからも更新頑張ってくださいな。
それではこれで失礼します。

2006.08.08 17:32 URL | バナナチップボーイ #- [ 編集 ]

いつもコメントありがとうございます。
バナナチップボーイさんのコメントで勉強をさせてもらっています。
私、説明が下手なので、どうも登場人物にしゃべらせてしまうクセがあるようです。 
この作品に関して言えばたぶんこのクセのままだと思うので、よろしくおつきあい願います。
 

2006.08.09 22:37 URL | 武久縞 #- [ 編集 ]

自分の拙作にご意見頂きましてありがとうございます。
こちらの物語は、本当に読み易く感じます。読み易いうえにわかり易いというのもありますね。この両者のバランスはなかなか難しいものだと、物書き見習いの分際ではありますが度々実感します。読み易さとわかり易さのバランスがとれているという点でも、やはり成功している、と思います。
加えて、これは自分と比べてではありますが、更新が早めですよね。見習いたいところが多いです。自分も頑張ろう……。

2006.09.08 04:06 URL | 一九 #- [ 編集 ]

コメントありがとうございます。
私の方こそ未熟者で、ときどき手抜きしたりしています。

実はこの物語は以前書きためていたもので、全編できあがっている作品です。休みの日に一章ずつぐらい手直ししながら公開しています。
予定では一週間に1章ずつ…と思っているのですが。
よろしければまた遊びに来てください。

2006.09.09 14:24 URL | 武久縞 #- [ 編集 ]













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