夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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 アリアは一睡もせず朝を迎えた。
 エドアルドを探しに行こうかとも思ったが、どこを探せばいいのか検討もつかず、オリシスに相談しようにもオリシスの居場所もわからない。 シモーナに聞けば分かるのか? シモーナだって客がいる。 もうじき客が帰る。それまで待つのか? 
 アリアの不安はふくれあがる。 しかし、今の状況でさし当たって出来るのは、荷物をまとめて待つ事だけだった。 もし何かあったのなら、すぐにもここを発たなければならない。 今度はどこへいけばいいのだろう。
 アリアは薄明るくなったホールへ向かい、そのまま外へ出た。
 表には誰もがまだ眠っているらしく、ひとっこひとりない。 通りの両端を目を凝らして見るが、やはり人影はなかった。
「あのときやっぱりついていけばよかった…」
石段に腰を下ろして膝を抱え込んだ。
 エドアルドはなぜ帰ってこないのだろうか。 何処へ行ったのだろう。 父の仇に関係する場所だろうか。 たぶんそうなのだろう。 帰ってこないのは兄の身の上がばれてしまったからか。 捕まったのか、それなら命はないとみてもいい。
 アリアは夕べから幾度も繰り返し考えていたことを、再度否定するように首を振った。
『どうでもいいから、仇なんてどうでもいいから…、』
 うずくまってしばらくアリアは動けないでいた。
「なにやってんだ、こんな朝早くから」
頭上からの声に、はじけるようにアリアは顔を上げた。
「オリシス!」
薄手の上着を肩からだらしなく下げた恰好のオリシスが、アリアを見おろしていた。
「大きな声を出すな。 みんなが目を覚ますだろう?」
眉をしかめ、面倒くさそうにオリシスはあくびをした。
「兄上が、エドアルドが昨日の昼から帰ってこないんだ!」
それでもアリアはすがるようにオリシスのズボンを乱暴に引っ張った。
「お、おい、やめろよ。 やぶけちまうだろ。 はなせよ」
「ズボンと兄上とどっちが大事だと思ってるんだ」
「今はズボンだな。 これしか今もってないんだ」
のんきにオリシスは、ずり落ちそうになったズボンを片手で引き上げた。
 アリアは怒りで顔を蒼白にし、すっくと立ち上がった。
「兄上が帰って来ないんだぞ?」
「どっからだよ」
まだオリシスの声は緊張感がない。
「わからんないよ!」
オリシスはアリアの怒りもよそに、もう一回あくびをすると首をコキコキと鳴らした。
「夕べ会ったぜ、あいつと」
「どこで!」
「ここで」
「え?」
 アリアはオリシスが親指で指すオリシスの背後の扉を見た。曇ったガラスがはめ込まれている大きくはないその扉は、まぎれもなくさっき自分が出てきた戸である。
 エドアルドは帰ってきていたのか? 兄と会ったということは、オリシスも来ていたと言う事か。気がつかなかった。二人とも自分に声もかけずに、いままでいったいどこにいたのだろう。
 とそこまで考えて、アリアはかぁっと顔を赤らめた。
「まだどっかの部屋で寝てんじゃないのか?」
と言ったオリシスの言葉に、アリアは怒りを爆発させた。
 オリシスを片手で払いのけて店の中に入る。階段の真下まで大股で歩み、大声でエドアルドを呼んだ。
「エド! エドォ!」
複数のドアが開く音がし、不機嫌そうな女達と、背後に隠れるような男達が手摺に集まって来ていた。
「エド!」
その男達の中に、アリアはエドアルドの姿を見つけた。
「アリア…ン」
「なにやってんだよ。そんなとこで!」
階段を降りてくるエドアルドに微かにしみこんだ香水の匂いを嗅ぎ取って、アリアは奥歯を噛みしめた。
「どうした、何があった?」
「何があったじゃない! 帰ったなら帰ったってなぜ言わないんだ。心配してたんだぞ!」
「まあまあ」
オリシスがアリアの後ろから声をかけた。
「いろいろあるんだよ。 大人の男にはさ」
オリシスの声を振り払い、アリアはまだ人がたかっている階段の上を見上げた。 エドアルドは誰の所に泊まっていたのか、それを確かめようとした。
 アリアの視線に、ラティアが入った。 しかし、ラティアはアリアにも負けない怒りの表情を浮かべた後、すぐに身を翻し勢いよく自室のドアをばたんっと閉めた。
「帰った時、おまえラティアと楽しそうに話していたようだったから、声かけそびれて」
アリアの肩を抱こうとしてさしのべたエドアルドの手も払いのけ、アリアはラティアと同じように自分の部屋にかけ込んだ。 中から鍵を締めてベットに身を投げた。
 どんどんと戸を叩く音がする。自分の名をエドアルドが呼んでいる。
 だがアリアは毛布を頭までかぶり、膝を曲げてちぢこまった姿勢で全ての音を遮断しようと努めた。エドアルドだって男だ。誰と何をしようと勝手だ。わかってはいるが釈然としない。いったい自分はなんでこんなに怒っているのだろう。行き先を言わなくてもいいと言ったのは、アリア自身である。そう、行き先はどうだっていい。何事もなかったのなら何も言う必要はない。ともかく無事だったのだ。この他にエドアルドに求めるものはない。だけど…。
「これは、嫉妬だろうか」
アリアはうずくまったまま言葉にした。 エドアルドだけは自分を見ていてくれると思っていた。 たぶんそうなのだろう。 だけど自分だけというわけにはいかない。 おいてけぼりをくったことが悔しくて、そして悲しいのだ。 兄妹といえど、そんな願いがかなわないと知りたくはなかったのだ。

「アリア、アーリアン」
エドアルドは宥める様にアリアの名を呼ぶ。
「ほっとけ。 おまえらいい加減くっつきすぎるぞ。 いい機会じゃないか。 乳離れしろよ」
オリシスがエドアルドの背中に声をかける。冗談のような口調だったが、目は真剣味を帯びていた。
「腹が空いたら出てくるさ。 それまで寝かせてやれよ。 一睡もしてないぜ、あの調子じゃ」
「オリシス…」
エドアルドは扉から離れ、オリシスの隣に座った。
「俺はアリアを巻き込みたくないと思っていた」
「もう巻き込んでるだろう? 親父さんの仇はなにもおまえだけの問題じゃあない」
「それは…、そうだけど」
「だったらちゃんと話してやれよ。 頑張っているように見えても、不安でしょうがないんだと思うぜ」
「…ああ」
オリシスは考え込むエドアルドの横顔を見た。
「まじめにとりすぎるな。 おまえの欠点はすぐ考えこんで口数が少なくなる事だ。 それがアリアを不安にさせる。 不安だから頑張ろうとするんだぜ」
エドアルドが顔を上げ、オリシスを捉える。
「オリシス、おまえ」
しかし、オリシスは肩にかけた上着に袖を通し、
「おれは家に戻る。 またくるからそれまでに仲直りしておけよ。 兄弟げんかのとばっちりはごめんだ」
と言い残してそのまま出て行った。
 エドアルドは長いため息をついて、アリアのいる戸を振り返った。

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