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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

「金髪の女はね、ナルシストよ。 結局は自分の美しか愛せないの」
次にめくるのは緑の葉を髪に飾った『大地の女神』だ。
「黒髪は惜しみない恵み。 情愛の深さ。 安堵と安心。 …あたしにあてはまってるかどうかはわからないけど」
そして次にカードを選んで差しだしたのは、胡桃色の髪をきっちり束ね、分厚い書を片手に抱いた『知』だった。
「理性と知性。 決して自分のペースを乱さない。 感情を出す事もない、一番やっかいな相手」
 並べたカードを引き寄せてラティアは笑った。
「あんた、これから女に接するときは気をつけなさいよ」
「これ、全部カードの意味なのか?」
「あたしの経験と実測よ。 ここにはいろんな女達が通り過ぎて行ったわ。 その統計ってところね」
カウンター並べられたそれらカードを眺めて、アリアはラティアに言った。
「ひとつ忘れてる」
「え?」
「赤毛」
ラティアはひと呼吸おいて笑い出した。
「赤毛は赤毛を選ばないわよ」
「なぜ?」
ラティアは手持ちのカードをすばやくめくり、『戦い』を抜き出してアリアの前に置いた。
「お互いを焼き尽くすから」
カードには赤い髪を振り乱し、剣の柄を握った勇ましい女性の姿が描かれていた。
「情熱。 正義感なんてもんじゃないわ。 あるのは情熱だけ。 全てを燃焼させるくらいのね」
ごくりとアリアは唾を飲んだ。
「…あんまり当てはまってないな」
「あたりまえよ。 これ女の性格だもん」
「じゃあ赤毛の男はどういうんだ」
ラティアは似合わず顔を赤らめた。 カードを必要以上にいじくる。
「あんまりつっこまないでよ。 わかんないわよ、男の事なんて」
そういうもんかな、とアリアは思った。 仕事上女性より男性の種類を知る機会が豊富なのではないだろうか。 が、ぼそりとラティアが言った。
「やさしいのよ。 赤毛の男は。 すごくやさしいの。 …きっと誰にでも」  
ラティアのその憂いのある表情は、いまさっきも見たような気がする。
「いっとくけど、あんたの事じゃないわよ」
「わかってるよ」
ラティアが言ってる赤い髪の男とは、さっき言っていた昔の話しの男なのだろう。きっとラティアはその男の事が忘れられないほど好きなのだろう。
『あれ?』
何かがアリアの心に引っかかった。
「もしかして…」
言いかけた言葉を無視するようにラティアは席を立った。
「さあて、あたしはもう店じまいするとしようかな」
「ちょっとまてよ」
「なによ」
「もうひとつ教えてくれ」
とラティアを引き留めたものの、アリアは先ほどの問いを口にするのには、すこしためらわれた。
「あ、あの…、オリシスはよくここに来るんだろう?」
「よくなんてもんじゃないわ。 しょっちゅう入り浸ってるわよ」
ラティアは「それがなんなの」とでもいいたげだ。
「それ、…誰の所に泊まってるんだ…ろう?」
聞きたいが聞かなくてもいいと思っていた事がつい出てしまった。 言った途端、後悔がアリアを襲う。 知らないとでも本人に聞けとでも言ってほしい。
 ラティアは店の中をぐるりと見回して、顎をある方へと傾けた。
「シモーナんとこよ。地味だけど、いい娘よ。 オリシスみたいな風来坊にはいいのかもね。 あいつはけっこうもてるから他の娘のやっかみも多いけど」
 顎が指す方を見る。シモーナとおぼしき人物がアリアの視界に入った。 淡い栗色の髪をきっちりと額の真ん中で分け、聡明そうな額を見せている。 髪は背の真ん中ぐらいの長さで、真っ直ぐに垂れ下がっている。 顔はラティアほど華はないが、それなりに人目を惹くタイプかもしれない。 この場所に似合わず清楚な感じといってもいい。 歳は自分と同じかひとつふたつ年下だろうか。 たまに微笑む表情は、野に咲いた可憐な花のようだ。 控えめな優しさを感じさせる、そんな女性だった。
『聞かなければよかった。 いや、見なければよかった』
アリアはカウンターに向き直してそう思った。
 ラティアが戻ってきてカウンターに肘をついた。
「なによ。 難しい顔してさ」
「別に。 意外だっただけだよ。 オリシスはあんたみたいなのが好みだと思ったんだ」
 そう言ったアリアの耳にラティアの笑い声が聞こえた。
「やめてよ。 たしかにオリシスはもてるけど、あたしはごめんだわ」
「え?」 
「いい男よ。気さくだし、男気があるし、この世界ではああいう男が逆に女を貢がせるくらい。 実際シモーナはあいつが泊まるときは自腹切ってるんだけどさ」
「それくらいいい男なら、なんでごめんなんだ」
アリアの純粋な問いだった。
「オリシスは絶対自分を捨ててはいないわ。 あんなふうに遊んでいるようでもね、いつかはきっとどこかに行ってしまう。 得体が知れないなにかを感じるの。 ああいうのに溺れたらきっと抜け出せなくなっちゃうわ。 だけどこっちが執着するほどには向こうはなにも返してくれない。 報われない。 溺れていくだけよ。 誇りもなにもかも失ってね。 そうするだけの価値があいつにあるかも知れない。 でもあたしは嫌なのよ。 自分自身の全てを男に捧げるなんて、冗談じゃないわ」
 そう語るラティアの頬は紅潮していた。 シモーナに嫉妬しているわけではなくむしろ男に対して怒りを押さえているように見えた。
 そんなラティアが語った赤毛の男に対するのはなんだったのだろうとアリアは思う。
 その夜、オリシスは現れず、エドウィルも帰ってはこなかった。
 
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