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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

「ふーん、あんたこれ、いいとも悪いとも言えないカードじゃない」
ラティアはカードの角を中指と親指で持ち、ふーっと息を吹きかけた。 カードはラティアの右手の中でくるくる勢いよく廻った。
「どこか具合でも悪かったのか?」
アリアは廻るカードの先のラティアの顔を見ながら言った。
「なんで?」
「今まで出てこなかったから」
ラティアはアリアの前のカードを全て引き寄せると、手際よく切り始めた。
「別に。今日は出張してたのよ」
「え?」
「他の屋敷に呼ばれてたの。 やることはここと同じだけどね」
「そんなこともあるのか!?」
カードを並べる手を止めるラティアはあきれ顔だ。
「あんたねぇ…。 まぁ、もうあんたの世間知らずは昨日で充分わかったからいいけど」
こういうお店にこれない上等な客もいるのだとラティアは言った。
「そのぶん金はいいのよ。 と、さあて」
めくったカードは、またも『運命の輪』だった。
「ラティアも運命…か」
「ちがうわよ。 あんたの未来よ。 あんた、よっぽどこのカードに気に入られたのね」
「どういう意味なんだ、これ」
「なあに? カードの意味も知らないでやってたの?」
「死神ぐらいは知っている」
「そんなの子供だって知ってるわよ」
ラティアのあきれ顔に苛立ちも加わった。
「さっきは適当にカードを切っただけだ。 カードの意味なんて知らない」
「あんたどういう所で育ったのよ 。剣の腕はあっても、それじゃあ世間を渡っていけないわよ。 必要なことは自分から学ばなきゃ」
「うーん…」

アリアは唸った。 ここでそういう事を言われるとは思ってもみなかった。 だがラティアの言う事はもっともだ。

「運命の輪はね、過去も未来も同じ運命をたどるという意味よ。 あんたの過去が良かったか悪かったかはわからないけど、必ず未来も同じような事を繰り返す。 言ったでしょ、いいとも悪いとも言えないって。 ところであんた、幸せだったの?」
過去も未来も同じ運命…か。 ならばあまり明るい未来とは言えない。 それでも今まで自分は救われていた方だ。 家族もいるし、なにしろ今は飢えてはいない。
「ああ、だけどこんなところにいるようじゃ、幸せってな訳ないか。 悪い事聞いたわね」
ラティアはアリアの答を待たずに勝手に結論づける。言葉尻をあげれば、ラティアも幸せではないと言う事か。
「自分のカードはどうなんだ? いい結果でも出たのか?」
アリアがそういうと、ラティアは皮肉っぽく笑った。
「自分を占ったことなんて、一度もないわよ」
「なんで?」
「いい結果がでるわけないじゃない。こんなところにいるんだもん。あたしの先なんて占わなくてもたかが知れてるわ」
「玉の腰ってこともあるじゃないか」
「ばっかねぇ。あたしたちみたいな商売女を正妻にしてくれる奇特な男なんていやしないわよ。いいとこいってお妾さんぐらいだわ。あたし、そんなのごめんよ。 …でも、そうねぇ」
ラティアは言葉を切り、ふっと笑った。
「いつか自分のサロンを持ちたいと思っていたわ。貴族や王族を相手にする高級なサロン。この世界から一目置かれるような」
そういう女性もいることはアリアも知っていた。貴族の娘より高い教養を持ち、楽器でも文学でも一言をもち、男性と対等に話しができるような高級娼婦。
「そうだな。…ラティアほど美人だったら夢ではないかもしれないな。でもなんで思っていたなんだ?」
「夢、じゃないのよ。手段だったの。…でも、もういいの。あきらめたわ。運命はあたしにこのまま生きていけと言っているのよ」
ラティアの言っていることはあまりにも抽象すぎてわからない。
「あきらめることはないじゃないか。 運命の輪なんてくそ食らえだ。 ラティアだって、この生活がいやなら抜け出せることもできるはずだ。 運命にしたがわなきゃいけない理由なんてどこにもないだろう?」
 ラティアはアリアをしばらく無言で見つめた。 そしてふと視線を外らし、カウンターに肘をついて前を見た。 目はカウンター奥の酒が並ぶ棚を見ているようだったが、どこか遠くを見ているようでもあった。 目を細め、何かを懐かしむように、とても何かを慈しむように、その横顔はとても美しく、アリアは女としてではなく人間としてラティアの横顔に引き込まれるのを感じた。
「同じ様な事を言った人がいたわ。ずっと昔に。あたしがまだ子供だったころ」 
 ラティアは呟くように言った。くすっと笑って、またアリアを見た。
「あんたのみたいに燃えるような赤い髪をした、あんたぐらいの少年だった。子供のあたしにとってはそれでも充分おとなだったけど」
そうしてまた目を細める。
「昔の話よ」
とラティアは繰り返した。
 思ってもみないラティアの反応にアリアは何を言ってやればいいのかわからなかった。 ラティアの思い出は、決して他人が踏み込んではいけない神聖なものなのだと思った。 アリアが見る姿無き人の夢のように。
「そういえばさ、あんたの兄さん、今日も出かけてるの?」
いつもの調子に戻ってラティアが言った。
「ああ、まだ帰って無いみたいだけど」
「ふーん」
 ラティアはつまらなそうにカードをもてあそんぶ。
「今日は客につかなくていいのか?」
「いいの。今日はもう金回りのいい相手をしたから、今は自由」
ラティアはでたらめにカードを並べていく。
「ほら、これ」
ラティアが出したカードには金髪の女性、『美』があった。
「なんだ?」
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読みましたよ~。
なんか、人間性というか、そういうものに重きを置いたネット小説というのは、意外に少なくて、ここでそういった趣の作品に出会えたのは良い出逢いだったと今そう思いますです。

これは元が大河ドラマとか。
となると、皆々時代の奔流に巻き込まれ、子供は大人に大人は年寄りになるのでしょうか??

だとしたら、連載どれくらい続くんだろう;
なんか、大変な作品のような気がしてしまったわたくしです。
最後まで頑張ってくださいな。
応援しております。

2006.07.14 11:18 URL | バナナチップボーイ #- [ 編集 ]

バナナチップボーイさん、こんばんは。
種を明かせば、この物語の中ではあまり時間の経過はありません。主要部分はせいぜい2~3ヶ月程度というところです。 今はまだ全体の1/7~1/8程度の進行状況です。 時代に本流され…という期待に応えられるいいのですが。

主要人物ももう少し増えますが、無駄話が続いたりと気ままに書いてしまった物語ですので、気楽に遊びに来てもらえたらと思います。

2006.07.14 23:54 URL | 武久縞 #- [ 編集 ]













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