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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 翌日になってもエドアルドは夕べの内容を伝えなかった。 アリアはそれが少々気にいらなかったが、あえて自分から聞こうとは思わなかった。 エドアルドが言わないのはまだ自分が知る段階ではないのだ。 ひょっとするとまだなんの情報も得られていないのかも知れない。 
 中庭で洗濯ものを干す。 あかるい太陽に自然とあくびが出た。
 夕べは飲み過ぎた。 あれから騒ぎらしい騒ぎはなかったし、オリシスも途中で居なくなった。 二階の部屋のどこかに消えたのだろう。 金がかかるとはいえ、更にもう一杯頼んでしまったのだ。
 首をぐるぐる回して、はぁーとため息をつく。
「気が重いな…」
 アリアは芝生に座り込んで膝を抱えた。 ラティアになんて言おう。まずは謝らなければ。
 それにオリシス。 自分達をここに置いたのは、オリシスが通う名目にしたかったからではないのだろうか。 ホールにいたきらびやかな女達。 妖艶な笑顔。 陽気な笑顔。 淑女のような笑顔。 あの女達のどの笑顔にオリシスは惹かれたのだろう。
 アリアのいた町にもそういう女達はいた。 男に媚びを売り、はすっぱな口を聞き、派手な化粧をする女達をアリアは内心嫌悪していた。 だが昨日の一件で少なくとも軽蔑の念は消えていた。 彼女達も人間で、そして生きて行かなくてはならない生き物なのだ。 自分がこうして生きながらえているように。

「ここにいたのか」
エドアルドが立っていた。
「兄上」
「いい庭だな、ここは」
「うん」
 日差しが二人を包み込む。 穏やかな午後が何もかも忘れさせてくれればいいのにと思う。
 が、エドアルドが言った。
「ちょっと出かけてくる」
アリアは顔を上げずに「うん」と答えた。
「どこに行くか聞かないのか」
「聞いたところで兄上は答えてくれるのか」
エドアルドは黙り込む。
「そのときが来たら話してくれるんだろう? だったら今はいいよ。こっちのことは私に任せてくれ」
「そんなに遅くはならない。昨日みたいなことはやめてくれ」
「大丈夫だよ。 兄上は私をそうやって甘やかす。 よくないことだ。 父上は私に厳しかったぞ」
「親父は俺にも、誰にだって厳しかったさ」
そうかもしれない。 だがアリアは思う。 父エルネストは自分にはもっと心の奥の方で冷たく自分を突き放していたと。 それは仕方の無い事なのだ。 アリア自身、そうされる方が甘やかされるよりずっと楽だった。 エドアルドの愛情は暖かい。 しかしその愛情に甘んじてはいけないのだ。 自分にそんな資格はない。
「アリア?」
 芝生をむしり取っていたアリアにエドアルドが声をかける。
アリアは腰を上げ、芝生だらけのズボンを払った。
「とにかく心配なんてしなくていい。 私は大丈夫だ」
 口元だけに笑みをたたえ、アリアはエドアルドを見た。 悲しみも苦しみも涙さえも深く閉ざした、いつものアリアの瞳だった。 その瞳を見る度にエドアルドはまた妹を捕まえ損なったような気分に陥る。 いつもそうだ。 守ってやりたいと思うのに、アリアはそれを頑なに拒む。 アリアが剣を学びたいと言った時もエドアルドは本当は反対だった。 だが父は自分達と同じように厳しくアリアを鍛えた。 戦に出る訳でもないのにそこまでやることはない。 打ち身や切り傷が毎日のように増えていく妹を見るのが苦痛だった。
「出かけなくていいのか?」
アリアが下から自分をのぞき込んでいる。
 エドアルドはアリアの肩をポンポンとたたき、片手を上げて中庭からそのまま外へと出て行った。
 
 エドアルドは夜になってもまだ帰ってこなかった。 店は夕べのように賑わいが増してきていた。 アリアは食事を自分の部屋で取ったあと、店に出て何をするでもなくカウンターに腰掛けて、店のざわめきを背中で聞いていた。 ラティアはあれから見ていない。 オリシスも今日はまだだ。 もしかしたら来ないのかも知れない。 来ないなら来ないでほっとし、また逆につまらなくもあった。
「まあいいけど」
今日は酒は抜きだ。 昨日の異人風の男とふた言三言会話をし、また手にあるカードをもて遊ぶ。 独り占いをしてみても出てくるのは決まって『運命の輪』だ。
「なにが運命の輪だ」
運命のカードを口にくわえ、歯形をつけるほど咬んでみる。
「ずいぶんしけた顔してんじゃない」
ラティアがアリアのくわえたカードを取った。
「ラティア」
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相変わらず、読みやすい文章に感激です。
今日もポチポチしときました。
いいですね、こういう内容は。
その昔、探してみたんですが、意外と小説では欧州を舞台にしたものは少ないですよね。
大航海時代の話なんかはあっても良さそうなのに全然ないという;
好きなんですけどね、欧州ものは。

続き楽しみにしています。

2006.07.11 10:50 URL | バナナチップボーイ #- [ 編集 ]

あまり無いのですか? 欧州もの。
…といっても、ワタクシもあまり欧州に通じているわけではないのですが…。

バナナチップボーイさんいつもありがとうございます。 自国でない地域の下調べってけっこう大変ですね。 お茶やビールがいつ登場したのか、なんてこと調べながら更新していきます。

2006.07.13 00:23 URL | 武久縞 #- [ 編集 ]













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