夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 ポチっとお願いします→
--.--.-- --:-- | スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-) |

雨の季節が去り、空に青空が広がった。
豊作を願う行事があり、鏡姫王は祭壇に苗を捧げた。
「今年の天候はどうか」
大王宝皇女は人払いをさせたあと鏡と向き合い、そっと小声で聞いた。
鏡は心の中で困惑する。
「今のところこれといった卦は出ておりませぬが…、わたくしが未熟であるが故に神の声が聞こえぬのかもしれません」
「神の声…。そう。たしかにあの雨は神の救いだった。神の声が聞こえぬということは、今はその必要がないということかもしれない。そなたが未熟であるわけではないでしょう」
あの雨とは二年前の雨乞いの雨のことである。
二年前、宝皇女が即位した年、十三歳であった鏡は、深刻な表情の宝に告げた。「十日後に雨は降る」と。幼い頃からの鏡の能力を知っていた宝皇女は、これを利用しない手はないと考えた。その日に合わせて雨乞いを行い、果たして鏡の予言通りに雨は降った。そのような政事の表の事情は鏡にはわからない。鏡はただ、見えたものを背の君である宝皇女に告げたにすぎなかった。
鏡には物事の予見が本当に神によるものであるのかはわからない。しかし、自分に与えられたこの不思議な力を説明するには、やはり神の名を使うより方法がなかった。今年の天候はどうかと宝は聞いたが、それは豊作かという問いであることを承知していた。雨の降る日をあてることはできても、季節を通じて毎日の天候を今ここで予測することはできないし、仮に出来たとしてもそれが果たして豊作に繋がるかどうかなど農民ではない鏡には判断できないことであった。
「そういえば、額田部が都にも居を構えたと聞く。そなたの妹も参るのでしょう?」
宝皇女は話題を変えた。鏡に対して詫びるような変え方だった。
「はい。昨日知らせがありまして、本日、額田はわたくしの館にも来ることになっております」
「そう。そなたも妹に会うのは久しぶりのこと。今日はもう良い。はやく帰って迎えておやりなさい」
まるで自分が妹を迎えるかのように、大王宝皇女の顔はほころんだ。
「額田には赤ん坊のころに会ったきり。今はいくつに?」
「十になりました」
「そう。愛らしくなったことでしょう。一度この宮につれてまいるように」
宝皇女の笑顔につられて、自然に鏡の口元も笑んだ。成長するにつれて花のように美しくなっていく妹の額田は、鏡にとって大切な存在であった。

大王の座を辞して、控えていた侍女の布由と共に宮を出る時、鏡はふと公達の輪に目を向けた。
「鏡姫様?」
布由に呼ばれて自分が公達に目を向けていたことに気がつく。自分は何をしていたのだろう。知らずの間に探していたのかも知れない。
宮にあがるといつも蘇我林臣が自分に声を掛けてきていた。鞍作と何の話をするわけでもない。ただ今日は雨が降りそうだ。輿は領巾(ひれ)を用意した方がいいとか、蜜がとれたので後で届けさせるとかいった、短いものであった。そのたびに鏡は軽く会釈し、そしてそのようなお心遣いは無用だと答える。実際そうした扱いを鞍作から受ける理由もなかった。
しかし鞍作は笑って「自分がそうしたいだけだ。気にしないでもらいたい」と立ち去っていく。
鏡自身は気にはしていない。うれしいとも迷惑とも思ってはいなかった。だが鞍作の声は、そんな鏡の心を知った上で逆手にとっているようで、鏡には不思議な存在だった。その鞍作の姿が、今日はなかった。
「姫様。妹君が先に屋敷に着かれてしまいます。お急ぎになりませんと」
布由は鏡を促す。布由にとっては鞍作の姿がないことは幸いであった。悪い人柄ではないことは感じていた。鏡姫王を利用して鏡王を自派に取り込もうだとか、大王に近づこうだとか、そんな姑息な事を考えるような人物では無いと思う。しかし宮中というところは、常に陰謀が渦巻いている。誰が何を考えているかは、事が起こってからではないとわからない。布由は鏡姫王だけはそんな渦に巻き込ませたくはなかった。巫女である立場の鏡の名を汚す要因は、避けなければならなかった。

スポンサーサイト
 ポチっとお願いします→












管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://yumenohazama.blog69.fc2.com/tb.php/156-88525822

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。