夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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「女を下ろせ」
 振り返った男は、自分を止めたのが線の細い子供なのを見てニヤリと笑い、空いている方の手でアリアを振り払おうとする。
 アリアはその振りを難なくかわし、素早く階段をかけ上がり、ラティアを抱いている方の肩に蹴りつける。 ゆるんだ手からラティアを奪い取るとすぐに自分の後ろに追いやり、よろめいた男に対して抜いた剣を突きつけた。
「余興はここまでだ。 このまま立ち去るか、ここで串刺しにされるか。さあどちらを選ぶ?」
 男は姿勢を立て直したが、目の前にあるのが剣と気づくのにしばらくの時間を要したようだ。
「へ、へへ、そいつの使い方知ってんのかい? ぼうや」
自分の姿は本当に子供に見えるのか、とアリアは面白くない。
「少なくともあんたよりはな」
シャっと振り上げた剣は、相手の胸元をかすった。 途端にはらりと男の胸がはだけ、胸毛がのぞいた。
「あんたみたいなやつの血を流したくてウズウズしてんだ。 こいつが振り下ろされる前に出て行った方が、あんたの身のためだと思うけどな」
アリアの目は真剣だ。 男はその気迫に押され、一歩も動けない様子だ。アリアは切っ先をゆっくり下げ、男の股間でぴたりと止まった。
「ここが使えなくなるってのは、どういう気分なんだろうな」
男の顔は途端に青ざめた。 
「わ、わ、わ、わ」
 階段を転げ落ちるような恰好で男は戸口に向かって走りだした。
 アリアも後を追い、戸口から遠くなっていく男の背を確かめた後、ゆっくりとカウンターへと戻った。
 廻りの男女が自分を見つめているのがわかる。 アリアがもとの席に付くと、観衆は徐々にまたざわめきを取り戻して行った。 さっき立ち上がった勢いでなのか、ワインの杯が倒れていた。
「ったく」
ひとりごちていると、目の前にすっと新たなワインが差し出された。 カウンターの中の男が涼しげな表情でコクンと頷く。
「いいよ、これ以上払えないから」
「いいんです。 私のおごりです。 今日はスカッとしました」
男の発音は少し変だ。 エタニア人ではないようだ。 短い黒髪を後ろに撫で付けた髪型が浅黒い肌に良く似合っている。 白目が見えないほどの黒い瞳。 若いようだが、もしかしたらかなり年上なのかもしれない。 どこかなつかしさを感じさせる異国風な、そんな男だった。
 アリアは軽く笑って新しい杯を取った。 口を付けたとき、聞き慣れた声が耳に入った。
「やりすぎだぞ、アーリアン」
「オリシス。いつきたんだ」
「取り込みの最中さ。 なんだよ、おれに騒ぎを起こすななんていっときながら、随分派手にやってたじゃないか」
オリシスもワインを注文する。
「しょうがないだろ。あの大男をひきずって行けるほど体力ないんだから」
「そうよね。 あんた小柄だしさ」
 いつのまにかラティアが隣に腰掛けて、乱れた髪を掻き上げていた。
「でも感謝するわ。ありがと」
ラティアの顔は少し青ざめているようだ。
「いいよ礼は。 仕事なんだから。 それより、あんなことしょっちゅうあるのか?」
「ううん。 客同士の争いならともかくだけど」
ふーっとラティアは大きなため息をついた。
「あいつとは前に一回上にいっただけよ。 ひどいやつだったわ。 殴るのよ。 そうしないと興奮しないなんて。 おまけに金だってけちってさ」
 アリアの中に新たに怒りが沸いてきた。 そうと知っていれば脅しだけじゃなくもっと痛めつけてやればよかったと思う。
「なんだってそんなやつと」
 アリアは嫌悪感をあらわにしてラティアに言った。 ラティアにではなく、あの男に対してだ。
「しょうがないでしょ。 これがあたしの仕事なのよ」
「だからといって、いやなことまですることないじゃないか。 もっと自分を大切にしろよ」 
アリアのその言葉にラティアはがたんっと席を立った。 拳を握った両手が震えている。
「あんた、よっぽどの世間知らずなのね。 あたしたちはただの娼婦なのよ。 金を払えば誰だって客なの。 好き嫌いなんていってられないのよっ。 これだから子供は嫌いよ!」
ラティアはそのままきびすを返した。 だがそこにエドアルドが立っており、ラティアは顔を硬直させ、一瞬立ち止まるがすぐにその脇をすりぬけ二階に駆け上がって行った。
「どうした」
エドアルドは今そこまでラティアがいた席に座った。
「何かあったのか?」
エドアルドがアリアとオリシスを交互に見る。 アリアの変わりにオリシスが答えた。
「アーリアンが初仕事をしたんだ」
顔色を変えてエドアルドがアリアをのぞき込んだ。
「ひとりで無茶はするな。 けがはないか?」
「ない」
けがはないが胸が傷む。
「傷つけるつもりはなかった。 あんな美人なら、相手ぐらい選べると思ったんだ」
 オリシスが事のなりをエドアルドにざっと告げたあと、アリアはそう付けたした。
 アリアは人との隔たりが長かった。 誰とも口をきかずに過ごした年月が、アリア独自の世界観を生んだのかも知れないが。
「まあな、ラティアはこの店の看板だ。 多少相手を選べる事はできるんだが」 
オリシスはぼそりとつぶやく。
「彼女は他の子をかばったのです」
先ほどのカウンターの男が杯を洗いながら低い声で話しかけてきた。 三人は異国風の男に視線を向ける。
「あの男は以前にも何度か来た事があります。 他の娘の客でしたが、その娘はがまんが出来ないと女主人に涙をためながら訴えていました。 人気の高い娘ならともかく、新人やそうでない娘は相手を選ぶことはできません。 ラティアは女主人に内緒でその娘に言ったのです。 今度来たら、自分が相手をするからと」
 カウンターの男は口に人差し指をあて、これは内緒にしておいてほしいと言った。
 アリアもエドアルドもオリシスも黙ってワインを飲んだ。
 ラティアが望むならもっと成り上がっていけるだろう。そうするには、ラティアの性格が許さないのかもしれない。アリアはラティアの、ここの女達の心内を少しだけのぞいたような気がした。
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