夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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明くる日も参議は休止となった。蘇我鞍作(そがのくらつくり)が紫冠を豊浦大臣に返さず、参議に出ないためであった。
大王宝皇女(たからのひめみこ)は豊浦大臣蘇我毛人を呼び出した。毛人は病を理由に宮に赴くのを避け、飛鳥寺を指定した。馬子が建てた飛鳥寺には高向王(たかむくのおう)と漢の菩提が納められている。
宝皇女は供の采女たちを外に待たせ、まず高向王と漢の菩提を弔った。そして次に毛人の待つ部屋へと向かった。

「豊浦殿、その腕はどうしました。病というのは」
座るなり、宝は毛人の首から吊された腕に気がついた。
山背大兄王(やましろおおえのおう)に切られました」
毛人の話に、ほうっと宝はため息をつき、眉を曇らせた。
「確かにそれでは人の前に出ることは出来ないでしょう。山背大兄王を擁護する声もあがっている今では、下手をすると蘇我の命取りになるかもしれぬ」
よくわかっているお方だ。毛人は黙って頭を下げた。 
「だが、なぜ紫冠を大郎に与えました。わたくしは許しません。なぜ大郎が」
久しぶりに漢の菩提を弔って気が高ぶっているのだろうか、宝皇女は涙声になっていた。
「漢を見殺しにしておいて、今度は勝手に大郎を大臣とするというのですか」
先の大王で夫であった田村皇子の手前、臣下達の手前、長い間抑えていなければならなかった宝皇女の感情が、一気になだれ出た様であった。
「わたくしの漢が死んで、なぜ大郎が生きて大臣となる? 豊浦殿!」
詰め寄る宝に、毛人はしばらく黙っていたが、泣き伏せる宝皇女につぶやいた。
「漢人は、あのとき生きていても、また殺されたでしょう」
宝皇女は顔を上げた。引っかかる言い方だった。
「…また?」
「生きている限り、漢人である限り、殺された。その理由は大王、あなたが一番よくご存じのはずでは?」
宝皇女の脳裏に夫だった田村皇子の冷たい笑顔が浮かんだ。青ざめて唇をふるわせる宝皇女。
「そう、だからわたしは漢人の名を殺しました」
青ざめた宝皇女の表情は、いぶかしげな不安なものに変わった。さっきから毛人の物言いはおかしい。
「…まさか」
宝皇女は手にしていた扇を持ち直したが、震えて取り落とした。だが拾おうとはせずに、毛人に膝を進めた。
「まさか、漢は」
「お気づきになりませんか。高向王に面影の似た人物を」
「漢は、生きて…」
「あの事件以前の記憶を閉ざしたままです。ですから、本人も自分が漢人であったとは覚えていないでしょう」
静かに語る毛人。宝皇女の方は、完全に落ち着きを失っていた。
「証しは…、証しはあるのですか」
「残念ながらございません。あのときの縁の者も、漢人を守るため完全に処分致しました。知っているのはわたしのみ。ですが、あなた様ならおわかりになるでしょう。歳を追う毎に似ていく者の姿を。それこそが漢人なのです」

宝皇女には信じられない事であった。十数年もの間、死んだとばかり思って来たのだ。それが今生きていると言われても…。しかし宝皇女は毛人の言葉を信じようとしていた。漢が生きている。愛した高向の息子、漢が生きている。高向によく似た人物…。

「…大郎か……!」
「今はまだ申し上げられません」
それが答えだった。鞍作と漢は、あの時入れ替わったのだ。宝皇女は殆ど確信した。
「明日は大郎を朝参させるのです。紫冠をかぶっていてもいい。大郎がいなくては議になりませぬ」
「仰せの通りに」
毛人は扇を拾って、宝皇女に差し出した。

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