夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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「そんなことができるの? 大王は死ぬまで大王でありつづけなけばならないというに」
小墾田宮大王(おはりだのみやのおおきみ)を思い出して下さい。有力な皇子はひとりもいなくなってしまった。中継ぎの大王は譲位できることを条件としなければなりません。これはかねてより論議を重ねてきた結果です。あなたが大王になれば、次の大王はあなたの言によって決める事ができるのです」
「わたくしの言葉によって…? 臣達が反対したら」
「大王の詔は何ものにも侵されてはならない神聖なものです。反対が出るようなら、この蘇我が力になりましょう」
意中の人物に大王を譲位する事ができる。宝皇女は心を動かしたようだった。葛城皇子ではなく、大海人皇子を思っているのかも知れない。思ってもいい。その時がくるまでは。
「豊浦どの、何を考えているのです。蘇我家にとっては割の合わない話。斑鳩や古人を推した方が蘇我家には有利でしょう。狙いは何なのです」
さすがに一筋縄ではいかない。そこがまたこの皇女の良さでもあるが。と毛人は思った。
「これからの国づくりは大王が主体にならなければならない。これは我が息子大郎の言葉ですが、私も感化されましてね。半島では三韓の政変が相次いでいます。またいつ大陸が動くかわからない。そのとき豪族が反目してては倭国自体が危うくなりましょう。私はただ国を憂いているだけです」
毛人は決して鞍作に感化したわけではなかった。この場を納めるために鞍作の言葉を借りたにすぎない。
「…大郎は息災か」
「はい」
「そう…」
宝皇女は漢を思い出しているのだろう。
「新しい大王の下で、大郎を働かせようと思っています。どうぞ手足のようにお使いください。なかなか頭が切れる男です。大王のお力になることでしょう」
「大郎の話は宮でもよく聞く。学問も武芸も勝っているとか」
宝皇女の声は抑揚がなかった。
「豊浦どの、あのときあなたは、必ずと言った。それをわたくしは信じました。結果として裏切られることになりましたが」
宝皇女は言葉を切って、毛人に向かって言った。
「わかりました。あなたの言うとおりにしましょう。そのように取り計らってください。ただし条件があります」
「なんなりと」
「新しい宮を建ててもらいたい」
この百済宮は昨年出来たばかりである。宝にもここを使ってもらおうと毛人は考えていた。
「新しい宮、ですか」
「飛鳥川のほとりの、あの館のあった地に、わたくしのための宮を建てること、これが条件です」
この百済宮は昨年出来たばかりである。随所にあたらしい技法を用いた壮麗な宮であった。宝にもここを使ってもらおうと毛人は考えていた。
「この宮では不足でしょうか」
「田村を思い出すところは嫌いです。飛鳥川のほとりの、あの館のあった地に、わたくしのための宮を建てること、これが条件です」
高向王と過ごし、漢が生まれ、そしてふたりが死んだあの館の地に。宝の心の傷は十五年経った今でもまだ癒えてはいないのだ。田村皇子を思い出す宮を嫌いだといい、昔の辛い思い出の地を選ぶ宝の心情はなんであろう。これは蘇我に対する批判のかわりなのかもしれないと毛人は思った。
「承知いたしました。仰せの通りにいたしましょう」

翌年、宝皇女即位。
飛鳥に倭国で始めて屋根を板で葺いた宮を造る。


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