夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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山背王が大兄になったそんな折り、宝姫王の父、茅淳王(ちぬのおおきみ)が身罷った。

家を出た宝姫王であったが、知らせを聞いてすぐ茅淳王の館に戻った。
館には母の吉備姫王、弟の軽王、他の異母弟妹たち。田村王、鏡王、そのほか息長氏族の豪族達が居た。葬儀の祭祀は宝姫王の異母妹三上姫が執り行っていた。
葬儀の間、参列した息長氏族達の目は、宝姫王に注がれていた。子を産んだとはいえ、宝姫王はまだ充分に美しかった。年を経る事に色の香を増しているように思えた。これならば、まだ充分にいける。吉備姫王と息長氏族の間で、暗黙の了解が取り交わされた。

そして高向王が死んだ。

落馬であった。
馬の尻には鏃のあとがあった。何者かが馬に矢をかけ、事故に見せかけたのだ。
いったい誰の仕業か。毛人は落胆と共に強い憤りを感じたが、鏃の件は馬子にも宝姫王にも告げなかった。高向王を殺して得をする人物がいるとは思えなかったが、黙っていれば必ず現れる。
宝姫王は高向王の非業を嘆いたが、気丈にも立ち直った。宝にはまだ漢がいた。漢のためにも泣いてばかりもいられなかった。漢の存在が宝を強くさせた。
その宝姫王が取り乱しながら毛人の元にやってきた。
「助けて、豊浦どの。わたくしを助けて!」
髪を乱し、衣の裾をもつれさせ、宝は毛人にすがった。
「連れ戻されてしまう。あの人達が、わたくしと漢を引き裂こうとしている」
高向王が死んだため、吉備姫王が宝姫王を田村王に嫁がせようとしているのを毛人は知った。合点がいった。高向王は息長に殺されたのだ。
「お願い。わたくしと漢を助けて!」
宝姫王を渡さない事も、あるいは出来たかも知れない。武力にせよ、財にせよ蘇我に息長がかなうわけがなかった。しかしここで宝を守って何になる。高向王はもう死んだのだ。生きているうちの出来事なら理由は明確だ。だが寡婦となった宝姫王の再婚を祖止する権限は、蘇我家にはなかった。
毛人は息長の狙いがなんであるか読めた。田村王を推して大王にすること。その時大后となるのは蘇我の法堤郎女ではなく、息長系王族の姫でなければならない。そのために宝姫王を連れ戻そうとしているのだ。
「宝姫王、漢人はわたしが責任をもって預かりましょう」
毛人の言葉に宝は顔をこわばらせた。
「な、」
「さあ、立ち上がって下さい。吉備姫王の館まで送りしましょう」
「豊浦どの…!」
宝姫王はしばらく涙に縁どられた瞳で毛人を見つめていた。それが次第に険しいものになり、毛人の手を振り払った。
「わたくしを見捨てるというのね」
「いいえ。あなたの将来を思っての事」
「言い訳はけっこう!」
宝姫王はこみ上げる嗚咽を堪えて声をあらげた。
「輿を用意させましょう」
「いいえ」
宝姫王は顔を上げ、毛人に背を向けた。
「ひとりで帰れますわ」
この気丈さ。毛人は高向王が宝姫王を選んだ訳がわかった気がした。この強さは侵し難いほど美しいと思った。
歩きだした宝姫王は、つと足を止め、毛人に言った。
「漢を、頼みます」
「必ず」
宝姫王は吉備姫王の館に戻り、高向王が死んだ一年後に田村王に嫁いだ。
田村王の、時には宝姫王をつれて伊予の石湯に行幸をしたりと、夫を亡くし、息子と離れた宝をいたわる様子が伝えられたりした。

その年、半島では新羅が任那に攻め入ったという知らせが倭国に入った。
唐建国に乗じた動きである事は一目瞭然であった。新羅征討軍を直ちに派遣したが、戦況は芳しくなかった。
翌年には唐によって三韓が冊封されたとの知らせが入った。唐の介入で倭国軍は半島を引き上げるよりほか、方法がなかった。任那どころではなかった。三韓が唐の属国となったとすれば、次は倭国の番であった。
巷では唐の大軍が押し寄せてくるとの噂が流れたが、いったいどうすればいいのか、どこに逃げればいいのか見当もつかないで、ただ右往左往するだけであった。


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