夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
 ポチっとお願いします→
--.--.-- --:-- | スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-) |
「ただで飯を喰わせてくれるなら願ってもないことだ。その分働くかなきゃいけないのもしかたない」
アリアはあっさり言いきる。 もうその気なのか、言葉遣いまで少しだが乱暴になっている。
「あんたらの部屋はこの奥だよ。 二階から上はお宝たちの部屋だからね、仕事以外は近づかないでおくれ。 仕事の対価は部屋代と飯代だけだ。 飲みたいんならその分は払ってもらうよ」
無愛想に女主人が手を払う。 払った先にドアがあり、たぶんそこが当分の間の住処になるのだろう。
「ほんとうにいいのか」
エドアルドがアリアに囁く。
「なにか悪い事でもあるのか?」
逆にアリアが聞き返す。 アリアがいいと言うのならかまわない。 しかし無理をしているようにも見える。 だが本当の本心はやはりエドアルドにはわからなかった。
「その…、なんてんだ? おれは、まあ、いいんだが、お前には刺激が強いんじゃないかと、思ってな」
口ごもるエドアルドにアリアは笑って答えた。
「何事も人生経験」
「…ん」
エドアルドも苦笑いを返す。
「じゃ、おれは帰るからよ。しっかり働けよ」
オリシスが片手を上げて、戸口に歩きだした。
「ああ、悪かったな。 いろいろと」
エドアルドが後ろから言った。 出て行くオリシスの背を見たアリアはあわてて問う。
「オリシスはどこに帰るんだ?」
「さあ、本家ってことはないと思うけど」
「もうここには来ないのか?」
アリアの自分を見上げる目がなんともいじらしく、エドアルドは片目をつぶった。
「たぶん、今夜また来るよ」
それが必ずしもアリアを喜ばせる結果にならないとしても、言ってやりたかったのである。
「今夜来るのにわざわざ帰る事もないだろうに」
とアリアはアリアで一人ごちている。
「おれたちは他の人間と接触しなければならないんだ。オリシスもそこらへんを察しているんだろう」
「ああ、そうか」
オリシスに会ってから緊張感がまるっきり抜けているアリアは、今更ながら自分達のおかれている状況を認識し直した。

 と、エドアルドとアリアは頭の上からの笑い声に、ほとんど同時に顔を上げた。
 笑い声は階段の手摺にもたれ掛かって階下をのぞき込んでいる数人の女達のものだった。 女達は肌着のような恰好で、髪も結い上げずに垂らしたままクスクスと低く響く声で笑っていた。

『これが宝たちか』

 アリアは声にならないほどの声で呟いた。 女主人が自慢するだけの事はある。 化粧はしてなくとも、匂いたつような色香がここまで届く、艶やかな一群だった。 中でもひときわ目立つ女がいた。
 黒髪を豊かにまとい、黒く彫りの深い目で、微かな笑みをたたえながら自分達を見おろしている。はすっぱな感じは微塵もなく、まるでどこかの気品ある女王のようだ。
 男達はこういうのに弱いんだろうな。 とアリアは思った。
『だがこの女に勝てるような男はそういない。 でもオリシスなら…』
オリシスを思い浮かべた途端、アリアは胸の傷みを覚えた。
オリシスが通っているというのは、もしかしたらこの女かもしれない。
 アリアは首を振った。
『だからといって、何がどうというのだ』 
オリシスはオリシスだ。自分とはその世界とは何の関係もない。
 部屋の扉の取手に手をかけながら後ろを振り向いたアリアは、まだエドアルドが上階を見上げているのを見た。
『しかたない。兄上も男なんだから』
 しかし視線を追うと、エドアルドは先ほどの黒髪の女と無言で見つめあっていた。 だがエドアルドの表情は女に見とれているという感じではなく、どこか記憶を手繰り寄せているふうであったのがアリアには解せなかった。
「兄上…?」
 アリアの声にエドアルドは我に返ったようだが、その後は上を見る事も無くアリアに続いて部屋に入っていった。

 あてがわれた部屋は、簡易的なベットと長椅子とテーブルがあるだけの、質素なものだった。
 すこしかび臭いのは窓が無いせいだろう。 毛布はあるが、外で干さなければ使えそうにない。 見ると埃がたまっている。
「とりあえず寝られるようにしなくては」
 アリアは荷物を置いて、作り付けのクローゼットの中を点検する。 ぼろ切れなどを取り出して、水差しを持ち上げる。 中身は空だ。
「ちょっと水を貰ってくる」
アリアは詰まれた毛布と水差しとぼろ切れを抱えて部屋を出た。 表通りとは反対の奥まった扉を見つけ、開く。 思った通り中庭に出た。
 中庭といっても使用人の使うものだが、それにしては手入れがよく行き届いている。 木も植わっているし花も咲いている。 一面に敷かれている芝生は初夏の色に染まり、中の雰囲気とはかけ離れた普通の家の中庭だった。
「けっこうやるな」
 アリアのここの女主人に対する賞賛だ。 物干しには女物の下着や、シーツ、カバーなどが風になびいている。
 アリアは空いている場所に毛布をかけ、手で埃をはたく。 井戸から水を汲み、ぼろ切れを浸しおもいっきり絞る。 水差しにも水を入れ、自分達の部屋に戻った。 エドアルドはベットに腰掛けて何かを考えているようだった。 テーブルやクローゼットを拭きながら、アリアは言った。
「さっきの人、知っているのか?」
エドアルドは顔を上げ、肩をすくめた。
「ずっと見ていたじゃないか」
「ああ。 どこかで会ったような気がするんだが、ぜんぜん思い出せない」
エドアルドの答えはアリアに対しての隠し事ではなさそうだった。 オリシスの連れとして記憶があるのでは、とも思ったが、ではなぜあの女はエドアルドを見つめていたのだろうか。 自分達ではなく、エドアルドだけを。
 それは結局声にならず、アリアとエドアルドは店が開くまでの間、少しの仮眠をとった。 ここしばらくろくに寝ていない。 オリシスに会った安堵感のせいか、3時間ほど二人はぐっすり眠った。
スポンサーサイト
 ポチっとお願いします→












管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://yumenohazama.blog69.fc2.com/tb.php/13-fe971357

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。