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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

「もうじき出港です」
 若い船員がエドアルドに声をかけた。
「気をつけて行きたまえ」
 サリエルがエドアルドに右手を差しだした。
「船長の腕が頼りですね。でも、海賊には負けません。傭兵の経験は伊達ではありませんから」
 笑ってエドアルドはサリエルの手を握った。
「世話になりました」
 バルツァ家に半年近く滞在していた。そして今、バルツァ家の貿易船に乗ってエタニアを出ようとしている。季節風がエドアルドを外の国に導いてくれるだろう。
「春にまた」
「ええ、春に」
 エドアルドの傍らにラティアがいた。
「ラティア」
 キアヌがラティアの手をとった。バルツァ家の暮らしにすっかり慣れ、他の子供達とも打ち解けたキアヌは、キア・ヌィとして新しい人生を歩み始めている。どんな人生を迎えるかは、キア・ヌィが決める事だ。
「元気で暮らすのよ」
 ラティアはキア・ヌィの頬にキスをした。
「ラティアも」
 エドアルドとラティアは船に乗り込み、甲板に立って、なだらかな丘に広がる白い家並みを眺めた。美しい港であった。
 自分の隣にラティアがいるように、アリアのそばにラースローがいるのだろうか。
 エドアルドはラティアの肩を抱き寄せた。
 出会う立場がほんの少し違ったら、違う関係になりえたかもしれない男のことをエドアルドは思った。アリアもオリシスも、みな笑って語り会えたかもしれない。
 いや、いつかまた会える。その時は笑って過ごそう。未来だけを見て、過去を捨てて。
 船がゆっくりと岸を離れた。
「さようならぁ」
 岸壁でキア・ヌィが手を振っていた。
「おーい、元気でなー」
 エドアルドもラティアも手を振った。
 サリエルが手を振る。皆が手を振る。
 船は海を滑り出し、次第に岸が小さくなった。
 また帰ってくる。春に、花の咲く頃。
「おーい」
「おーい…」
 港が見えなくなるまで、船が見えなくなるまで、彼らは手を振り続けた。

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