夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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 その一瞬、オリシスには赤い炎が舞ったように見えた。
 森と言うよりは大きな林の中のぽっかりとあいた湖の畔で、日が傾きかけ、辺りを淡いオレンジに染め上げていた。

 赤く煌めいていたものを抱きかかえた男が言った。
 かつてはここ、エタニアいちの美男子と謡われ、魔の手を持つ者として王宮さえも震撼させたこの男が、今や何という変わりようだろう。
 不精髭を生やし、衣の裾は破け、何日も着替えていないのか、衿や袖に垢がこびりついていた。あわい栗色の髪は艶を失くし、無造作に束ねられている。しかし目だけは驚愕と怒りと悲しみの混じった光を宿し、真っ直ぐにこちらに向けていた。

 いつから、何が狂ってしまったのだ。

 オリシスは剣を手にしたまま、動くことが出来ずにいた。目の前の光景は、本当にいま自分の前にあるものなのだろうか。

 いつから、何が狂ってしまったのだ。
 アリアが間者としてラースローの屋敷に入った時か。エドアルドとアリアの兄妹がタニアを追われた時か。エドアルドの父親が、宮廷の陰謀に陥り討たれた時か。
 ならばどれをとっても自分の手が一枚入っているではないか。いくら現国王の命とはいえ、カルマール一家をこのように導いてしまったのは、他でもない自分自身なのだ。
 失敗はなかった。途中の行き違いはあったにせよ、物事はうまく運んだ。先国王は亡くなり、側室のティスナも処刑された。キアヌは未だ見つからないが、あの王子にはもともと罪はない。今は正当な王太子メルキオが王位を継ぎ、国内の混乱の収集に力を注いでいる。
 だから友を欺いたこともまだ納得ができた。
 たったひとつの誤算は、アリアが…、あのアリアがラースローと恋に落ちた事だった。
 これは天罰だろうか。
 シモーナはアリアの行動を読んでいたが、そんな事は有り得ないとタカをくくった己のおごりがもたらした報いなのか。

 ラースローがコーツウェルの屋敷から行方をくらました時、オリシスはまさかと思った。
 もう勝負はついている。逃亡するなどラースローらしくないやり方だと思った。そこまで生に執着する人間には思えなかった。あいつなら最後の最後まで戦うか、若しくは潔く死を選ぶかのどちらかを選んだはずだ。そうならなかったのは、アリアが居たからだと気付いた時、オリシスの胸にたとえようのない痛みが走った。
 アリアは嫌な男に素直について行くような女ではない。相手の寝首をかいてでもエドアルドの元へ戻ろうとしただろう。アリアもまたラースローと共に生き抜く事を選んだのだ。エドアルドに言われなくても、あの屋敷に残った茶を確かめたときにそう思った。苦い後味が口に残った。
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