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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 半年が過ぎようとしていた。
 オリシスは新政権の仕事や旧国王派の残党の処理で、タニアを離れる事なく忙しい日を送っていた。 
 エドアルドからは報告は入る。しかしラースローもアリアも、そしてキアヌもラティアの行方も依然と行方が掴めなかった。
 そんな折にエドアルドが一時タニアに戻って来た。国王に呼ばれたのと、エドアルド自身の理由からだった。
「貴公の報償が決まったぞ」
 タニアについたエドアルドをオリシスとカルロス・モドリッチが出迎えた。本来なら既に半年前に決まってもいいことだったが、
「カルマール家の元領地、カンタリアに帰れることが決まった」
 所有していた貴族の領地替えなどの問題を片づけるのに時間がかかったのだとカルロス・モドリッチは言った。
エルネスト・カルマールが所有していたカンタリア領並びに爵位の返還がこのたびのエドアルドの働きに対する報償だった。 
しかしエドアルドは眉をひそめた。
過分な報酬だとエドアルドは思った。ラースローやキアヌの行方がまだ掴めていないし、それに働きと言っても、ティスナを捕まえ、オレアルを切ったことだけだ。誰でも出来る。領地を授かるほどのことでもない。
「嬉しくないのか? やっと汚名が晴らせたではないか」
 カルロス・モドリッチがエドアルドの様子に声をかけた。
「嬉しいさ。誰よりもきっと」
 エドアルドはカルロス・モドリッチの手を握り返した。嬉しくないわけではない。父の望みが叶った。しかも家の再興だ。
『アリア…』
 メルキオは厳かに国王の椅子に座った。
 エドアルドはラースロー捜索の状況を報告した。北を中心に捜しまわっていたが、冬の間は雪深く、思うようにはかどらなかった事などを告げ、未だ手がかりも見つからない事を詫びた。
「致し方あるまい。あやつがまた呪詛を行うとは思えないが、王妃の心労はひどい。次のマテオ、いや、わしにまで呪詛が行われるとおびえきっておる。わしとてカミーラやユーシスを殺された恨みは深い。なんとしてでも探し出して息の根を止めたい」
 息の根を止める…か。エドアルドは小さくわからないようにため息をついた。
 その後、正式にエドアルドへカルマール家のかつての領地と子爵の称号が受け渡されようとしていた。エドアルドは捜索の任をしばらく解かれ、カルマール家再興のため、領地に赴くよう言い渡された。
「あの事件にはわしも心を痛めていた。これでエルネストに報いることが出来るな」
 そんなようなことをメルキオは言った。
「では、ここにご署名を」
エドアルドは差し出された羽根軸を手にとった。書面の文字を追うが、頭の中には入ってこなかった。何も書かずにそっと羽根軸を書面の上に置いた。
 そこにいる皆が、エドアルドの行動に目を疑った。エドアルドはメルキオに向き直った。
「どうした、なぜ署名をしない」
 問いかけるメルキオに、エドアルドは言った。
「領地や爵位はいりません」
「なに?」
「私をただの国民として頂きたく思います」
「なんだと?」
メルキオが椅子から立ち上がった。
「何もいりません。私が望むのは自由です」

エドアルドは王宮内に拘束された。エドアルドを自由にすることはもはや出来なくなっていた。この事件に深く関わり過ぎている。そのまま解放するには知り過ぎているのだ。メルキオに仕えれば問題はなかった。エドアルドにその気があろうとなかろうと、事の機密保持や他の臣下の手前、メルキオの政権から離れることを許さなかったのである。
 エドアルドにとっても充分承知していた処置であった。
 それでもこのまま宮中に身を投じる気にはなれなかった。一時は思った。メルキオの元で名をあげ、カルマールの家を盛り返す事を。しかし、疑問はいつもついて回った。今回のラースローの追跡でさらにそれが深まった。
 閉じこめられた一室で、エドアルドは大人しく黙っていた。部屋の外には見張りの兵士がいるはずだった。強行に逃げようとは思わなかった。従わないが為に殺されてもいいと思っていた。だがこのままでは死なない。
 部屋の扉が開かれた。
 入ってきたのはオリシスだった。
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