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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 葬儀の翌日、皇太子メルキオの戴冠式が行われた。
 メルキオは名実ともにエタニアの国王となった。新政権の誕生である。
 依然、キアヌの行方は掴めなかった。行方と言えばラースローとアリアも見つかってはいない。
 ティスナをタニアに護送したエドアルドは、オリシスとサリエルと共に王宮のひと間に控えていた。
 アリアがラースローと逃亡している事について、エドアルドは何も言わず眉をしかめただけだった。
 国王メルキオが姿を現した。カルロス・モドリッチがそばに控えている。
「この度の働き、ご苦労であった」
 二人は頭を下げた。
「ヤーニス・オレアル伯がカルロス・モドリッチにこれまでのことを子細漏らさず話したそうだ」
 カルロス・モドリッチは、オレアルが安心して新政権に迎えられたと思っている、自分の屋敷で安穏に生活していると伝えたあと、
「エドアルド、貴公の言った通りだ。餌をちらつかせたら簡単に釣れた」
 と言った。
「エドアルド・カルマール。ヤーニス・オレアルを捕らえよ。抵抗したなら、その時の処置はまかせる」
 エドアルドはうつ向いたままメルキオの言葉を反芻した。そんなエドアルドをオリシスはちらりと見る。
「全てを語ったということは」
 サリエルが膝を送ってメルキオに問うた。
「ティスナ様は」
「あの者の罪は重い。オレアルの処置が済み次第、処刑する」
「陛下!」
 サリエルが更に膝を送った。
「罪を認めたのですか? オレアルの証言だけでは真実かどうかわかりませぬ」
「だがあの女は逃げ出した」
「ですが、最後まで誠意をこめて前国王を看取ったのはあの方です。その点をもう一度熟慮願います。どうかせめて裁判を」
「罪は決まった。裁判の必要はない」
 それは絶対的な言葉であった。サリエルは拳を握りしめて頭を下げた。
 メルキオが退出した後、サリエルがひとり先に出た。
「エドアルド。私も行けと命を受けている。このまますぐ発つぞ」
 カルロス・モドリッチが近衛兵を呼び、控えさせた。
「エドアルド。陛下は貴公を試している。どういう行動をとるか見るおつもりなのだ。この意味がわかるであろう?」
 帽子のをかぶり直してカルロス・モドリッチがエドアルドを見る。オリシスがエドアルドの肩に手をおいた。
「オレアルを切るか?」
「わからぬ」
 エドアルドは呟いた。憎い仇だった。父を殺したのはまちがいなくあの男だ。そればかりか汚名まできせた。
 メルキオはエドアルドがオレアルをその場で殺すのを期待しているのだろう。生きて王宮に入れたくない気持ちは良くわかる。それがわからぬよう人間は必要ではない。確かにメルキオはエドアルドの力量を試すのだろう。
「その場になってみないとわからぬ」
 もう一度エドアルドは呟いた。オリシスもマントを羽織る。
「おれも行こう。おまえの仇打を見届けてやる」
 頷いて、三人はオレアルの屋敷に向かった。

 オリシスとカルロス・モドリッチの来訪を、オレアルは喜んで迎えた。近衛兵の姿を自分を王宮に迎えるための護衛だと見た。
「よく参られた。さあ、中へどうぞ。オリシスどのも」
 かつて自分がした仕打ちの事など、記憶の彼方に追いやっているようだ。オリシスは無表情でオレアルを見た。
「まあ座ってくだされ。取っておきのワインを出しましょう。おい、だれか」
 家人を呼び、改めて客人を見たオレアルは、もうひとり見慣れぬ騎士がいることに気が付いた。
「そちらの騎士は」
「ああ、紹介しましょう」
 カルロス・モドリッチが名を言う前にエドアルドは帽子を取った。染めたままの褐色の髪。
 この顔…。オレアルは眉をしかめて記憶を手繰り寄せた。どこかであったことのある…。
「初めてではない。会った事はあるはずだ。思い出すがいい」
 声を聞いて、オレアルの顔色が変わった。
「偉くなったものだな、オレアル。父カルマールも喜んでいるだろう。自分の部下がこのように出世して」
「き、貴様は…!」
 オレアルは後ずさった。一歩、エドアルドが近づく。
「さんざん人を罠に仕掛けてきたおまえだが、自分の足元の罠には気が付かなかったようだな」
「なっ…」
 オリシスとカルロス・モドリッチの顔を見比べたオレアルは、ようやく自分の立場を理解したようだった。
「モドリッチ殿、どういう事だ。言ったではないか。殿下は心の広いお方で全ては水に流すと」
「確かにそう言った。だが、言ったのは私でメルキオ陛下ではないのでね」
 オレアルは言葉を失った。
 騒ぎを聞きつけたオレアルの私兵数人が剣を手に三人を囲んだが、さらに大勢の近衛兵達に囲まれているのを見て怯んだ。
「悪あがきはやめろ。陛下はおまえの爵位を剥奪した」
 エドアルドが剣を抜いた。と、突然オレアルは高笑いした。
「おまえに人が殺せるものか。あの男も軟弱なやつだった。泣いてわしに命乞いをした。泣いてだぞ。あの男の息子のおまえも同じだ」
高笑いをやめないオレアルの首を、エドアルドは切った。ドサリと音がして、オレアルの太った体が床に転がった。
「計算違いをしたようだな。父はそんな男ではない。そんな戯れ言に動揺するおれでもない」
 死体に向かって言葉を吐き捨てたエドアルドに、カルロス・モドリッチは口笛を吹き、オリシスは眉をしかめた。
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