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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 ティスナはゆっくりと小さな声で、国王の死、ここから向かう場所、キアヌの置かれている立場をリュージャに聞かせた。と言ってもラティアに細部まで解るわけもなかった。キアヌの前ではティスナの過去は話せなかったが、それはリュージャが一番良く知っているはずだった。そしてティスナが引き起こした呪詛事件のことも。
「母上は、やっぱりぼくが嫌いなんだ」
 キアヌがうつ向いた。
「それは違うわ」
「だったらどうして一緒に逃げてくれなかったの? ぼくが足手まといだから? ぼくがいると母の立場がわるくなるの?」
「違う」
 ラティアは苛立った。
「あんたは幾つになった? もうそろそろまわりを見渡してもいいころよ。これからは自分で自分を守っていかなきゃならないの。ひがんだりすねたりしている時間はないのよ。こんなことになって辛いだろうけど、あんたを逃した母親の想いを大事になさい」
 ひとりの人間として、ひとりの人間に対する思いをラティアはぶつけた。
「あんたを見捨てたんじゃないわ。あんたを生き残らせたかったのよ。強くなりなさい。あんたの母親はひとりで戦っている。あんたに出来ないわけがないわ。自分の人生に立ち向かって行きなさい」
 エドアルドもアリアンもティスナもひとりで戦っている。ここにいるリュージャもずっと戦ってきた。
「あんたが今まで宮廷で窮屈な生活をしていたのはわかっているつもりよ。あんたの相手をしてくれる人は誰もいなかった。母親は前ばかりを向いていて、あんたを省みなかった。父親の愛は盲目すぎた。確かにあの人はあんたには冷たかったけど、あたしにこう言ったのよ。愛する事は出来なかったけど、息子の幸せを願っていると」
 キアヌは目を見開いた。
「あの人は愛し方を知らなかった。いえ、そういう思いも愛であると知らなかったのよ」
 キアヌは何かを言いかけたように口を開き、そして閉じた。
 リュージャはそんなキアヌの手を取って、やさしく包み込んだ。
「あなたの名に良く似た言葉があります。 -キア・ヌィ-。 アルラの国の古い言葉で、美しい海という意味です。母君の生まれた港もそう呼ばれてました」
 涙がキアヌの頬をつたった。あとからあとから流れ落ちた。声をたてまいと必死に堪えるキアヌをラティアは抱きしめた。ティスナの想い。リュージャの想い。全てが深く悲しかった。
 声を立てずに泣くキアヌは必死に大人になろうとしていた。

タニアで厳かに国王オルギウスの葬儀が執り行われた。
 キアヌは窓から父である国王の為の鐘の音を聞いてた。何を考えているのか、じっと耳を傾けているその姿に、ラティアは声をかける事ができなかった。
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