夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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 後少しでタニアに入る。ラティアはキアヌの肩を抱き寄せた。キアヌは北宮を出てから何も聞かない。なぜ北宮を離れるのか。なぜ王の馬車ではなく、荷を積んだ小さい馬車なのか。なぜ平民のような恰好をしているのか。
 キアヌにはもう解っているのかも知れない。父国王の死も何もかも。知っていながら耐えているキアヌがラティアには悲しく思えた。
 北宮を出た後、ラティアはジノアという街宿に向かった。かつてラティアの背後でささいた女の声にあった宿だ。自分の名を告げると、店主は奥につれて温かいお茶を飲ませてくれた。
「もしあんたが来たら知らせてくれって頼まれてたんだが、もう随分前にその方達は出て行ってね」
 それきり連絡はないのだと店主は言った。その人物の名はラティアには心当たりがなかった。偽名かもしれないと思ったが、いないのではしかたがない。取りも取りあえず来てみたが、味方だと言う証拠はないのだ。
 連絡が取れなかったのは、父の看病で手が離せなかったのだとラティアは言った。
「商売でこっちに来ていたんだけど父さんが死んで、田舎のおばさんを頼らなくちゃいけなくなったの。タニアまででいいから、タニアに戻る商人を紹介してくれない?」
 馬を買って単独で走らせるより、どこかに紛れ込んだ方が安全であるとラティアは思った。実際キアヌを連れて二人で旅をするなど無茶な話だった。
 人のいい店主は明日出る商人の一家を紹介してくれた。
「なんでもします。あたし、下働きでもなんでも」
 お金をもたない孤児、キアヌはラティアの弟という間柄にした。父親の死のショックで言葉が話せない。そうしなければ喋り方で怪しまれる可能性があった。演技ではなくキアヌは言葉が少なかった。体が弱いことにしている弟の分もラティアは働いた。食事の支度から洗濯。時には夫人の話し相手にもなった。夫人はラティアを気に入ったようだ。もしよかったら、タニアでも働いてくれないかとまで言ってくれた。だがラティアは笑って辞退した。
「残念だわ。あなたのことを想っている若い者がたくさんいるのに」
 商人の雇人達の中でもラティアは人気者になっていた。キアヌを誘って、途中の川で釣りをしてくれる者もいた。初めはなれないキアヌであったが、やっと釣れた魚をうれしそうにラティアに見せる事もあった。
 
 タニアの入り口で商人の一家に別れを告げた。夫人も商人も涙を流して別れを惜しんでくれた。 無事にタニアにはついた。問題はこれからだ。ここに長くいる訳にはいかない。タニアにはキアヌとラティアを知っている者も大勢いる。
「店にいってみようか」
 とラティアは迷った。あの事件を知らない者はいないだろう。ここからどうやって南へ行こう。
 タニアの街はいつも通りの活気があったが、それとは違うざわめきもあった。それがなんであるかラティアにはわからなかった。
 ふいにラティアは路地に引き込まれた。キアヌがラティアの腕にしがみつく。
『物盗り? それとも』
 ラティアの背中に汗が流れた。鼓動が早くなる。
「わたしです」
 その声は
「異人さん…」
「無事だったのですね」
「ああ…」
 涙が溢れた。ラティアは異人さんに抱きついた。
「よかった。心配していたの、よかった」
 異人さんはラティアを抱きかかえながら、自分の家に連れていった。
 小さな貸し部屋には小さなテーブルと椅子、それにベットが置いてあるだけだった。異人さんが階下のかまどから湯を運んでくる間、キアヌとラティアはベットに腰掛けていた。
「あたしの友達なの」
 キアヌにはそれだけ言った。こくんとキアヌは頷いて、それ以上聞かなかった。
 茶器も借りてきたらしく、それぞれ形の異なったカップでそれぞれが黙ってお湯を飲んだ。
「あの店は?」
 ラティアが沈黙を破った。
「大丈夫です。みんな元気ですよ」
「異人さんは?」
「わたしもまだそこで働かしてもらってます」
 よかった…とラティアは目を伏せた。
「ごめん。巻き込んじゃって」
 異人さんは首を振った。
「いいえ」
 あのおかげで会いたい人に会えた。異人さんはキアヌの方を見た。目を細めて微笑む。
「キアヌ様、ですね」
 ラティアもキアヌも同時に異人さんを見た。
「母君の面影があります」
「おかあさまを知っているの?」
 止めようとしても無駄な事だった。キアヌは抑えていた感情が吹き出すように、リュージャにすがった。
「古い知り合いです」
 初めて知った。ラティアは異人さんの横顔を見た。黒い髪、訛のある喋り方。異人さんというあだな。
「まさか…。まさか、リュージャって…?」
「そう、わたしの名です」
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