夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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「カルマール殿」
 サリエルの兵士の一人に呼ばれて、エドアルドは馬を下りた。小さな焚火の跡があった。
「まだかすかに熱があります」
「まわりの者に伝えて貰いたい。むやみに歩き回って足跡を消すなと」
 焚火の跡は小さかった。ある程度の人数が推定できる。北宮を出る前に確認した事をあわせるとこの逃亡に従った人数はほんの数人になる。その中にはラティアも含まれていた。
 だが足跡と蹄の跡は一人かせいぜい二人、そんなものだった。
「まだこの近くにいる。違うかも知れない。見つけても脅かすな。むやみに剣を抜くな」
 足跡の方向に馬を進める。どこに向かっているのだろう。東か北か。隊は分散し捜索を始めた。
 エドアルドが進む方向に小さく馬の影が見えた。と、エドアルドは馬を全力で走らせた。前方の馬上の騎手が振り返る。追うエドアルドに気がついた騎手は馬を蹴って駈けはじめた。騎手はひとり、服装は男のものだ。
「はっ!」
 エドアルドは馬に鞭をかけて追う。差はみるみるのうちに縮まった。他の方向を探索していた兵士達がエドアルドに気づき、向かってくるのが遠くに見えた。
「止まれ!」
 馬一頭ぶんの差に追いついたエドアルドは、馬上の騎手に命令した。が、もちろん止まる様子はない。エドアルドはさらに馬の速度を早め、前に回り込んで行く道を塞いだ。と逃亡者の馬が驚き、高く前足を上げたかと思うと、馬上の人物を振り落としてわき道にそのまま駈けて行った。
 馬から下りたエドアルドは剣の束に手をあて、その人物に近づいた。顔を伏せて投げ出された身をかばうように背を向けている。マントのフードからこぼれた長く黒い髪。
「ティスナ妃でございますね」
 そう呼びかけられ顔を上げたその人物は、ゆっくりとエドアルドに向き直った。黒耀石のような瞳に射抜かれて、エドアルドは息を飲んだ。おびえもせず、取り乱しもしない冷静な瞳だった。
「お迎えにあがりました。タニアにお連れします」
 ティスナはゆっくりと立ち上がり、胸を張った。自然な態度であった。生まれつき備わった気品かとエドアルドに思わせた。たったひとりで逃げていたのか。どこかに行こうとしていたのか。共のものは…。
「キアヌ様は」
「知りません」
「他には」
「知りません」
 おそらくティスナは初めからひとりだったのだ。
「エドアルド・カルマールか」
 自分の名を呼ばれてエドアルドは身を硬くした。なぜ自分の名を。知っているのであれば、父に関する情報に自分も含まれていたからに違いない。それは父の死にティスナが関与していたにほかならなかった。そしてタニアで罠にはまりかけたのがこの自分である事も。
「来年の春、バルツァ家を訪ねるがいいでしょう。一段と美しい花が咲いているかもしれぬ」
 エドアルドがその意味を問う前に、兵の一団が追いついた。
「参りましょう」
 ティスナはマントの裾を翻して、エドアルドに背を向けた。兵士たちは黙って後に従った。
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