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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 エドアルドがティスナの行方を追っている同時期に、オリシスはコーツウェルに入った。
 サリエルは国王の遺体をタニアに送る準備を進め、また、四方に張り巡らしたティスナ捜査網の管理もしていた。
「オリシス! 怪我はもう良いのか」
 サリエルはオリシスを迎えた。その様子は裏切行為とはかけ離れたものだった。
『決心がついたか』
 サリエルが何を考えていたのかはわからない。裏切りではなかったのかもしれない。しかし、もし仮にサリエルがメルキオを裏切っていたとしても、オリシスはサリエルを責める気にはなれなかった。サリエルにはサリエルの過去がある。バルツァ家の軍がこの国の中央へ向かない限り、その過去にあえて口を出す積もりはなかった。
「寝ていてばかりではしかたがないと、カルロス・モドリッチに叩き起こされましたよ」
 実際怪我は良くなっていた。オリシスがコーツウェルに来たのは、事の実態が見たかったのもあるが、アリアの行方も知りたかった。
 エドアルドが言ったように、アリアがコーツウェルを出ているとすれば、オリシスがタニアにいる間にアリアからの何らかの連絡があってもよかった。あの娼館にも姿を見せていない。シモーナは…。
 シモーナはすでにこの世にいないであろう。とオリシスは思った。
「ティスナ妃は」
「まだ見つからぬ」
「ラースローは」
 すぐにラースローの屋敷にも兵を差し向けたが、もぬけの空だったとサリエルは言った。まわりの農家に聞き取りを行ったが、複数の足音が西に向かったと言う者もあれば、北に走る影を見たと言う者もいた。そしてほとんどが何も知らないと言った。
 いずれにせよ、ティスナを捕らえるのと同じように四方に追跡隊を送っていると、サリエルは言った。
 北宮のサリエルを後にして、オリシスはラースローの屋敷に馬を走らせた。

 ラースローの屋敷は人が住んでいた痕跡がないほど整えられていた。家具には白い布がかぶせてあり、書室の窓のよろい戸は下りていた。台所の鍋や食器は磨かれて棚に納まっているし、寝室のシーツは乱れてもいなかった。
 ただ、書室の小さなテーブルには茶器が置かれており、中には香りのなくなった薬湯茶が半分残っていた。
 オリシスはその茶を指先ですくって香りを嗅ぎ、嘗めた。
「!」
 茶器を払いのけたい衝動をオリシスはかろうじて抑えた。誰の為に煎れたものだろうと、これはアリアの残した唯一のものだった。
「アリア…!」
 カルマール家の薬湯茶は特殊な煎れ方をしていた。薬草の組合わせがお互いの香りを引き立つように調合されている。熱い湯を注ぐとほんのり香ばしい香りが立ち、甘みがひきたつ。母が入れたようにはいかないが…と、あの農家風の小さな家で、アリアはいつも言っていたが、アリアの煎れた茶はエドアルドやカルマール氏や自分をなごませてくれた。

 アリアはラースローと共にいる。

 そう思うとオリシスはちりちりと焼き付く胸の痛みと息苦しさを覚えた。
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どうも。ここでは初めてのコメントです。

まだ全部は読んでいませんが(失礼!)、
はじめから読ませていただきます。。

2007.02.16 06:37 URL | FUMING #fNC2qBvU [ 編集 ]

ここでは、初めまして、ですね。

初めから読んで頂けるなんて感激です。
これからもよろしくお願いします。

2007.02.18 15:07 URL | 武久縞 #- [ 編集 ]













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