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夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

 ラティアはティスナが語った物語が、いったい何を意味しているのかわからなかった。いや、わかってはいるが、淡々とした語りがまるで別の世界の物語のようで、目の前にいる女性の半生だとは到底思えなかった。真実だろうか。そう、真実なのだ。この女性の気高さは、ここから生まれたのだ。自分には到底及ばない孤独な戦いが、ティスナを作り上げたのだ。
 ティスナは何を望んだのだろうか。極めた栄光の維持だろうか。キアヌを擁立させることで達成しようとしたのだろうか。
「ティスナ様…」
 違うとラティアは思った。これは復讐だった。国王オルギウスに、この国に対する。
「ティスナ様」
 もう一度声に出して相手を呼んだ。応えはいらない。ただ呼びたかった。与えられた栄華にそのまま身を投じるには、あまりにも無惨な過去であった。忘れようにも忘れられなかったに違いない。心を狂わすには自我が強すぎたに違いない。
「あのように殺される理由は、父と母にはなかった。弟は…、まだたった六歳だったのに」
 ぽつりと聞こえた声は、やはり淡々としたものだった。
 キアヌをもってオルギウスとメルキオの間に不和をおこさせ、エタニアを混乱に陥れる。信頼の厚いメルキオが有利なのはティスナにも解っている事だった。自分の息子に殺されるがいい。それがあの男に一番ふさわしい死に方だった。そうなるはずだった。もう少し時があれば。
「私は母親でありながら、国王の息子でもあるキアヌを愛せなかった。でも…」
 ティスナは立ち上がってラティアに背を向けた。
「でも、あの子の幸せを願っていることに偽りはない。王族ではなく、人間としての」
 ラティアも椅子から離れ、膝まづいた。
「何も知らずに生まれたあの子に罪はない。罪がないと言えば、王女や王子にも罪はなかった。私にとっては、それでも尚、やらなければならないことだった。だから、全ての罪は私が背負う。ラティア。時が来たら、キアヌを連れて行って貰いたい」
「はい」
 出来るかどうかわからなかった。だがラティアにとってもそれがやらねばならない事だった。地図の隣にチャリという音をたてて皮袋が置かれた。
「これは」
「金貨と宝石類。おまえならこの使い道がわかるはず」
 革袋はずしりと重かった。
「時がくれば…」
 それは国王オルギウスの死を意味しているのだと、ラティアは悟った。
「かならず」
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