夢のはざま

鏡女王の物語【水鏡】連載中です。

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 タニアからの使者が来ていると告げられ、ティスナは眉をしかめた。国王オルギウスの状態が外に漏れているとは思えない。皆、変を感じているのだろうが、表だって口にする者はいない。噂は早馬よりも早いと言われるが、それでもタニアに状況が伝わったとは思えなかった。
 ティスナは衣服を改め、使者の前に姿を現した。
白髪が混ざった頭を下げひざまずく人物。
「サリエルどのか」
「お久しゅうございます。ティスナ様」
 サリエルは一旦頭を上げたが、視線は床に落としたままでまた首を垂れた。
「陛下はお休みになられています。なに用で参られましたか」
「ご機嫌伺いにございます。陛下ならびにティスナ様におかれましては、ますますご健勝のことと存じ上げます」
 無粋は武人なだけあって、サリエルの礼は型どおりであり、言葉尻から本心を見抜くことは困難であった。サリエルの本意を測れないのは疲れているせいもあったが、ティスナは疲労を理由にしたくはなかった。
「コーツウェルはもう秋。今の時分に来たところでなんの意味も無いところです。まさか避暑に来たなどと言うつもりはないでしょう?」
 ティスナの言葉に、サリエルは心持ち顔を上げた。
「北の国境でトルキット族の一群を見かけたとの報告がありました。国境の警備の見直しと視察をメルキオ殿下から仰せつかりました」
「そう言う話は陛下を通すのが筋ではないのですか」
「陛下の意向を伺うようにとの事でございます。ここコーツウェルにも賊が入った由、微弱ながらこの件につきましてもお役に立ちたいと存じます」
 ふ…っ、とティスナは心の中で笑った。
「陛下には明日お話になりますように。先ほども申しましたが、今日は既に休まれています」
 立ち去ろうとするティスナの背中に、サリエルは声をかけた。
「ティスナ様」
 立ち止まるティスナ。
「しばらくゆっくりしていかれませ。陛下は夏の疲れでここ最近はあなたの苦手な晩餐会も催していません。余計な気苦労に煩わされることもないでしょう」
 サリエルの呼びかけを無視して、ティスナは去った。残ったサリエルはティスナの衣擦れの音を聞いた。
『それにしても』
 国王がまだここに滞在しているというのに、この北宮の寂しさはどういうことだ。とサリエルは思った。宮廷夫人達のきらびやかな笑い声や、臣達の重々しい足どりはまったくなかった。派手好きなティスナもこの様子に気が付いていないようだ。
 ここに来るときにも数回見かけたが、タニアや自分達の領地に戻る貴族達が日に日に増えているようだった。
「陛下はこのところお姿を見せません」
 そう漏らしていた侍女の言葉はサリエルに重大な意味をもたらしていた。
「陛下はご病気か」
 ただの病気ではあるまい。北宮には漠然とした寂寥感はあっても緊迫した緊張感は感じられない。陛下が病だとすると、隠さなければならないほど重体なのではないだろうか。
 サリエルは自分の兵がいる北の外れの牧草地に、従卒らとともに馬を走らせた。

 エドアルドは街を避け、街道を迂回しながらラースローの屋敷に向かっていた。まさかまだアリアが残っているとは思えなかったが、消息は掴めるかも知れないと思った。
 北宮に行ったサリエルは相変わらず何も喋らない。それならそれでこっちも自分なりに行動するしかない。
 屋敷が見えてきたところでエドアルドは屋敷の背面につながる林に入った。木々に日光を遮断されるとさすがに肌寒くなる。コーツウェルは秋をすっとばして今にも冬に入るのではないかと思うほどだ。
 林の中に馬を繋ぎ、足音を忍ばせて屋敷の様子を伺う。窓も扉も閉められており、馬屋にセレスはなかった。
「行ったか」
 ほっと胸をなで下ろす。ここを去ったのならいい。エドアルドは落ち葉を踏みしめて引き返した。

 ラースローを宮まで送り、街に戻ったアリアは買い出しの為に馬車を止めた。初めてこの街に訪れた時に比べると、人の数が目に見えて減っていた。
「いつまでここに宮を置く気なのだろう」
 そんなことを考えてみる。それは自分はいつまでここに居る気なのだろうという自問でもあった。と、騎馬兵の一団が通り過ぎた。今までに見た事もない甲冑と旗を携えていた。
「どこの兵だ」
 遠巻きに見る民衆に混じって、アリアも彼らを目で追った。
 ラースローが毎日出仕している事、オレアルが屋敷を襲った事。それにこの兵士。ラースローは言った。もじきここから出て行くことになるのだと。北宮での異変は深刻なものであることは容易に察しがついた。だから、ラースローの怪我の理由だけではなく、こうして送り迎えをしているのだ。馬車にはある程度の荷はまとめてある。その気になればここから脱出する事もできる。
 アリアはいつものように食料を馬車に積んで、帰りの時間まで街で暇をつぶした。いったい自分はどうしたいのか。そんな自問を繰り返しながら。

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